高度専門職人材の育成機関として、産業分野の活性化に資するプロフェッショナルを育成する産業技術大学院大学(AIIT)。専門的知識と体系化された技術ノウハウを活用して、情報アーキテクチャ専攻では情報分野の専門家を、創造技術専攻ではものづくり・デザインの専門家を育成している。

尾崎敏司
京都大学大学院 人間・環境学研究科 相関環境学専攻修了。2013年トレンドマイクロ株式会社入社。同年産業技術大学院大学 情報アーキテクチャ専攻入学2015年修了。現在は仕事を継続しながら筑波大学大学院 システム情報工学研究科 リスク工学専攻で学んでいる。

現在、トレンドマイクロ株式会社で働く尾崎敏司氏も修了生(情報アーキテクチャ専攻)の一人だ。トレンドマイクロ社はインターネットセキュリティの会社だが、その中で尾崎氏はウイルスバスターの企業向け製品のテクニカルサポートを務めている。
学生時代は物性物理を学んでいたという尾崎氏。同社への入社と同時に、IT・情報セキュリティ分野での知識を深め、仕事の基盤を作ろうと、AIITの門を叩いた。
「入社の段階ではテクニカルサポートの部署に行くことは決まっていたが、当時はまだITのバックグラウンドがなかったので、深く体系的に学びたかった」という。
 

習得した体系的な知識を会社でも応用

 「会社と学業の両立はハードだったが、AIITで学ぶことで業務にも役立つ知識を体系的に習得することができた」と尾崎氏。氏の学んだ情報アーキテクチャ専攻では、応用情報の背景についても踏み込んだ講義があり、ネットワーク関係の体系的な理解が進んだのだという。

「同級生には、既にIT系バックグラウンドがあって、知識も豊富な友人も多かった。彼らとともに学ぶことで、他の会社の働き方も見ながら基礎技術を学ぶことができた」と尾崎氏は振り返る。

もともと物理を学んでいた尾崎氏は、「パソコンを使って実験データをそろえたり簡単なシミュレーションを行ったりことはあったが、ネットワークやOSの仕組みについては興味がなかった」という。
「しかし、AIITの授業や実習の中で学んだことで、ネットワークやOSがどう動いているかを理解することができた。その知識を会社におけるトラブルシュートをする業務にも生かした。また、企業のネットワークがどう構成されているかなどといったネットワークの構成もAIITで学び、ITに関するリテラシーを身につけることができた」

知識の習得と実践での応用を日々行き来してITに関するリテラシーを身につけたことで、会社の製品に対する理解が深まり、顧客への製品の説明やトラブルシュートの際に、より説得的な役割を果たすことができるようになった。
「AIITで学んだことが影響していると思っている」という。
 

AIITでの経験をベースに博士課程へ

 尾崎氏にとって何よりも大きかったのが、AIITで学んだ経験が、修了後、会社に戻った後の進路を決めるための大きなベースとなったことだ。
尾崎氏は、今後、博士課程に入学し、リスク工学について研究する予定だ。ユーザーインターフェイスの改善をテーマに、ユーザーが自分で理解して使えるセキュリティ運用のガイドラインを模索する研究だ。

「もともと大学にいたときから研究をやりたいと思っていたが、この研究テーマはAIITで学んだことと業務の両方をベースに醸成された」という。
尾崎氏の担当するサポート業務は、製品に内在するリスクの顕在化に対処する業務である。尾崎氏は、AIITでITリテラシーを学んだ経験をもとに、製品のガイドラインに目を向け、製品をどのくらいユーザーが使いこなせているかを考えた。
「業務に戻った後に、自分が向き合っているものは何だろうと考えるようになった」という。
その中で、ユーザーとのギャップを埋める必要を感じ、顕在化したリスクそのものに問題意識を持ったことがきっかけとなって、氏はリスク研究をテーマに定めた。

「AIITで学んでいなければ、そもそも博士課程に行こうとは考えていなかっただろうし、研究テーマを決めることもできなかった」と尾崎氏は振り返る。
「研究テーマにつながる問題意識を持てたこともあるが、AIITで修士相当の勉強をしたことが自信になり、会社と学業の両立を達成できるという実証にもなった」

AIIT在学中にはまだテーマも決まっていなかったし、「先が見えなかった」と尾崎氏。
2年次にPBL(Project Based Learning型教育)の研究会発表で、研究の中で物を作ったことが、自らの取り組むテーマを考え始める端緒にもなった。
PBLとは、数名の学生がチームを組み、明確な目標に向かってプロジェクトを完成させる取り組みで、最後には具体的なプロジェクトの成果発表をすることになる。

「当時はちょうどGoogle Glassのリリースが議論されていて、プライバシー侵害が問題になっていた時期だった。その中で、どういった動画が他者のプライバシーを侵害しているかを検知し、むやみにアップロードしてはいけないと警告を出すアプリを作った。研究の中で物を作れるというのは得難い経験だった」と尾崎氏。
PBLの中で、手さぐりで進んでいったことで最終的な試作品にたどり着けた経験が、今の業務と今後の研究テーマにも役立っているのだという。

業務も勉強も、自らの理解を深めていく選択をしてキャリアを形成してきた尾崎氏。
「今いる状況を生かせる選択肢を取る生き方をしたい」と尾崎氏は語る。
「AIITに入るときも、ここで学ぶ中でマイナスになることはない代わりに、今後の人生に生きてくることは確実にある、と思って決断した。その気持ちを持ってAIITでも学び、それを次のキャリアに結び付けることができた」
 

取材後記

 尾崎氏の経験した変化は、現在の業務の向上だけではなく、現在のキャリアのさらに先へつながっていく布石だった。
会社での業務とAIITでの学びが相互に作用し、修了後に独自の問題意識を熟成させるのに役立った。学び続けることで開いていく扉がある。キャリアの道は全てどこかにつながっていると考えると、学びは全て潜在的なきっかけになるのだろう。

 

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