光応用製品のパイオニアでもあるアバゴ・テクノロジーは、III-V 族半導体(化合物半導体)をベースとするアナログ/ミックスドシグナル、オプトエレクトロニクス部品などの設計/開発、そしてグローバルな製品供給で市場を牽引している。
同社は、米国ヒューレット・パッカード社(HP)の電子部品事業部を前身とし、膨大な光応用製品の中でも特に、光学式エンコーダと高機能フォトカプラにより、モータ制御、電力制御などのキーデバイスを革新し産業用ロボット、エネルギー変換機器、電気自動車の進化を加速することで、グローバルにおいて高いシェアを占めている。
2015年は透過型エンコーダが進化を遂げ
製造装置のモータ制御にさらなる高精度化をもたらす
製造装置や多様な産業装置に使われている高性能なモータは、その動きを正確に検知するためにエンコーダという光応用製品を利用している。
エンコーダは、モータの回転方向や回転位置の速度などを計測し、その数値を制御機器に伝達する。その計測方式には、磁石とホールセンサを利用する磁気式と、LED発光素子とフォトダイオード*1を用いる光学式があるが、現在はモータからの温度と磁界の影響を受けにくい光学式のエンコーダを採用するケースが増えている。アバゴ・テクノロジーは、その光学式エンコーダ市場において、常に市場をリードし多くの製造装置のモータ制御に貢献してきた。
*1=半導体ダイオードの一種。半導体の接合部に光があたると電流が発生する性質を利用したもの。光の検出などに用いる。
同社のインダストリアル プロダクツ営業部 プロダクト マネージャーの畑口俊也氏は、2014年から2015年にかけてのエンコーダ製品への取り組みについて説明する。
インダストリアル プロダクツ営業部 プロダクト マネージャー
畑口 俊也 氏
「2014年に当社は、逓倍*2回路を内蔵し、高分解能を指先に乗るほどの小型化を実現した反射型エンコーダ・チップで、大幅な省スペースと低コスト化を実現し、順調に製品をリリースしてきました。そこで2015年は、透過型のエンコーダを進化させるために、新たな製品を投入します」
*2=周波数をn倍に変換すること。
エンコーダを利用する測定機器は、反射型と透過型という種類に区分されている。
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反射型エンコーダは発光素子と受光素子を単一表面上に実装し、薄型化と小型化を実現している。一方の透過型エンコーダは、LED発光部と受光IC部がコードホイールを挟む形式になっているため部品の形状が大きい。しかし、古くから多くのモータ制御に使われてきたため、業界のスタンダードとして広く普及している利点がある。
「新製品の透過型エンコーダは、受光ICチップ内に逓倍回路を内蔵し、高分解能な測定を実現しています。その性能は、従来製品と同じパッケージで最大5倍になります。この高性能な透過型エンコーダを採用すれば、モータ制御がさらに高性能になり、製造装置の性能も高められます」と畑口氏。
世界で6割以上のシェアを誇るフォトカプラの
需要を促進するコラボレーション展開
電気的に絶縁しながら信号を伝達できるフォトカプラは、産業用ロボット、電力インバータ*3、太陽光発電装置から電気自動車など、幅広い用途で使われている。
*3=直流電力から交流電力を電気的に生成する(逆変換する)電源回路、またはその回路を内蔵した電力変換機器。
アバゴ・テクノロジーのフォトカプラは、受光側にアンプやハイパワーのドライバを組み入れたり、素子の中にADコンバーターを搭載したりするなど、特定の機能を持ったICを一緒に集積させた多機能さが特長。この分野ではワールドワイドで60%以上のシェアを誇り、産業用ロボットやインバータなどのIGBTゲート駆動*4や電流・電圧検出では、国内外のメーカーの多くに採用され、デファクト・スタンダード的な製品も多い。
*4=高い電圧、大きな電流を扱う半導体(パワー半導体)のゲート駆動。
同社のアイソレーション プロダクツ営業部 プロダクト マネージャーの高田篤氏は、最新の取り組みについて次のように話す。
プロダクト マネージャー 高田 篤 氏
「この一年で、パワーデバイスに対応したフォトカプラのラインナップを拡充しています。また、SiC*5など新しいテクノロジも数多く出てきているので、フォトカプラと一緒に使われる部品を供給しているメーカーとのコラボレーションを強化しています。例えば、太陽光パワーコンディショナ用IGBT(パワー半導体)の分野では、国内の大手パワーデバイスメーカーとコラボレーションして、評価基板を提供しています。
この評価基板を活用すると、装置のエンジニアはすぐにパワーモジュールとゲート駆動用フォトカプラの性能をチェックできるので、電力変換回路の開発にかかる期間を短縮し、短期間で効率よく装置の開発を推進することができます」
*5=Silicon Carbide(シリコン・カーバイド)。シリコンと炭素の化合物。
高い信頼性と高度な付加価値により、高機能フォトカプラの分野において世界的なシェアを維持している同社には、産業用機器や電気自動車、太陽光発電装置関連企業など、多くの顧客からのフィードバックがある。その中で、同社のフォトカプラを組み合わせて製品やモジュールを提供しているメーカーからも、数多くのコラボレーション案件が寄せられている。
「もちろん、お客様の中には最終製品の付加価値を高めるために、IGBT駆動回路をすべて自社のノウハウで構築される例もあります。その一方で、より短期間で市場に製品を投入したいとか、IGBT駆動回路以外の部分で製品の差別化を強化しようと考えているお客様にとって、我々がパートナーと一緒に推進している評価基板を活用することは、とても有用です。また、産業機器や電気自動車の電力制御装置を開発されている多くのエンジニアの方々は、いま以上に電力を上手にコントロールしたいと考えています。そうした要望に、我々はフォトカプラという単独の製品だけではなく、各々のパワー素子に最適化された評価基板の共同開発や、標準的な仕様の検討など、互いのコラボレーションという形で貢献していきたいと考えています」と高田氏。
展示会ではエンコーダやフォトカプラを活用した
新しいビジネスの可能性が広がる
5月に開催される「TECHNO-FRONTIER 2015」モータ技術展では、光学式エンコーダとフォトカプラの最新技術や今後の製品動向を紹介する実演や展示が用意されている。
「高分解能透過型エンコーダーのAEDT-9810シリーズは、30年の歴史と実績を持つHEDS-9100シリーズと全く同じ外形パッケージを持つ新製品です。内部に高性能逓倍回路を内蔵して、同サイズで5倍の分解能を実現し、容易にお客様製品のアップグレードが可能になります。会場では、これらの新製品のデモンストレーションも予定しています」と畑口氏は説明する。
また、モータ技術展に行く前に知っておきたい情報について、両氏に聞いた。
「透過型エンコーダの最新モデルを見ていただきたいのはもちろんですが、いまエンコーダの需要は、ステッピングモータ*6や電動式アクチュエータ*7といった、これまでは制御を行っていなかったり、空気圧などを利用していた装置への新たな需要が起こっています。特にステッピングモータでは、エンコーダによる制御が加わることで、これまで実現するのが難しかったコストパフォーマンスに優れた製造装置の設計も可能になります。こうした分野への応用は、低いコストで高度な制御を実現するので、日本の製造装置のグローバルな競争力を高める原動力にもなります。会場では、ぜひそうした新たな応用分野とビジネスの可能性を実感してください」と畑口氏はエンコーダについて触れる。
*6=パルス電力に同期して動作する同期電動機である。したがってパルスモーター(Pulse motor)とも言われる。簡単な回路構成で、正確な位置決め制御を実現できるので、装置の位置決めを行なう場合などによく使われる。(略称ステッパ)
*7=伸縮・屈伸・旋回といった単純な運動でものを動かす駆動装置。油圧や空気圧を使う装置に対して、サーボモーターを利用するタイプを電動アクチュエータと呼ぶ。
一方のフォトカプラでは、より高性能かつ高精度になった電流検出やゲート駆動ソリューションなどの展示に加え、パートナー企業とのコラボレーションから生まれたソリューションへの期待も高まっている。
「過去のコラボレーションへの取り組みの中には、展示会での会話がきっかけになった例も数多くあります。当日は、ブースにわたしも立っていますので、見かけたらお気軽に声をかけてください。お客様と一緒になって課題に取り組んでいくことで、新たな製品へのヒントやコラボレーションへと発展していく可能性もあります。ですので、ぜひ多くの電力制御における課題を持ってモータ技術展にご参加いただければと願っています」と高田氏は述べた。
■「TECHNO-FRONTIER 2015」アバゴ・テクノロジー展示会情報はこちら
http://www.avago-event.jp/