文部科学省が大学の国際化のために重点支援する「スーパーグローバル大学創成支援(タイプB:グローバル化牽引型)」に採択された立教大学。2024年の創立150周年に向けて策定した国際化戦略(Rikkyo Global 24)は、「海外への学生派遣の拡大」「外国人留学生の受け入れの拡大」「教育・研究環境の整備」「国際化推進ガバナンスの強化」の4つを柱に、グローバル教養人材の育成への具体策を明記している。中でも、話題を呼んだのは「5年後には2万人の学部生の50%、10年後には100%の学生が、卒業までに海外を経験する」との目標だ。

国際系の単科大学や学部単位では既に全員留学を実施している事例もあるが、立教大学が総合大学としていち早く「100%の学生が海外経験」を含めた意欲的な数値目標を掲げたことは、大学関係者の注目を集めると同時に、「100%の御旗を掲げてしまったがために、数字に縛られ、質をないがしろにした教育になるのではないか」とやっかみ半分で危惧する声も聞かれる。果たして、意欲的な数字の向こう側にある、立教大学が目指す「グローバル」とはいかなるものなのだろうか。
 

激動期の国際人材育成の伝統

スーパーグローバル大学構想として、立教大学が掲げたのは「グローバルリベラルアーツ×リーダーシップ教育×自己変革力 ―世界で際立つ大学への改革―」だ。

立教大学は、日本が開国の混乱の真っ只中にあった明治7年(1874年)、米国聖公会のチャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が東京・築地に聖書と英学を教えるために開いた私塾からスタートした。つまり、時代の激動期に「語学力」と「リベラルアーツ教育」をベースに、新しい社会の中核となりうる「国際人材」を育てることを教育理念とした立教大学にとって、創立から140年を経た新たな激動期に、グローバル人材の育成に取り組むことは、古くて新しいテーマなのだ。

吉岡知哉総長は「“グローバル人材”とは、英語力や専門分野の深い知識はもちろんのこと、物事を多面的・俯瞰的に捉え、他者を柔軟に受け入れ、多様な価値観の人々と協働できるリーダーシップを兼ね備えていなければならない。そうした人間を育成するために、立教大学が伝統的に取り組んできたリベラルアーツ教育と先進的なリーダーシップ教育が大きな意味を持つとともに、グローバル大学構想の核になる」として、これまでの取り組みを高めていき、世界水準の教育システムの構築を目指す考えだ。

立教大学 総長 吉岡 知哉 氏


リベラルアーツ教育に関しては、1997年度から、各学部の専門教育とあわせて、他分野の科目群から語学や、文学、芸術など幅広い教養を身につけることができる「全学共通カリキュラム」を全ての学部が協力して展開。“専門性に立つグローバル教養人”を育成するための環境は既に整えてきたが、今後は新しいプログラムも加え、国際化に弾みをつける。

中でも特徴的なのが、国境を越えて活躍するために必要な異文化理解力、コミュニケーション力などを身につけた、グローバルリーダーを育成することを目的とした「グローバル・リベラルアーツプログラム(GLAP/グラップ)」だ。GLAPに入学する学生は、入学時点で専攻分野を選択せず、入学後は外国人留学生とともに学ぶ英語の授業のみで学位が取得できるプログラムで、1年間の海外留学に加えて、日本で学ぶ期間も海外からの留学生と共同の寮生活を通じて、徹底した異文化コミュニケーション体験ができる。


一方、「リーダーシップ教育」で目指すのは、人の先頭に立って、多くの人間を統率するカリスマ的先導者ではなく、柔軟性と調和力のあるリーダーだという。吉岡総長は「組織の中で志を同じくする者同士、それぞれの得意分野を活かしながら、ある時はリーダーとして動き、別の局面では、フォロワーとしてリーダーをサポートできるような関係を築ける人間を育成することが、立教大学が目指すリーダーシップ教育であり、変化の激しいグローバル社会で求められるリーダーを世界に示していくことができる」としている。
 

「英語を学ぶ」だけでなく、「英語を使う」

 立教大学では2010年度から、8名程度の少人数での「英語ディスカッション」や20名程度の「英語プレゼンテーション」を1年次生の必修科目として取り入れ、きめ細かな言語教育を展開してきた。

「英語を学ぶだけでなく、授業の中で英語を使う体験を繰り返すことで、自らを発信するための英語力をつけるのが狙い。受験のための英語の勉強を経験してきて、ついTOEIC等の点数を上げることを目標に設定しがちだが、グローバル化社会で本当に求められるのは、知識・教養をベースに、自らを伝える英語力だ。レベル別のクラス編成で、1年間英語に触れることで、会話力もコミュニケーション力も驚くほど伸び、学生は自信を持つ」そうだ。
さらに、長期・短期の留学制度を整備したことで、留学や研修を通じて海外体験を積む学生が徐々に増え、直近では年間1000人近い学生が何らかの形で海外体験をするまでになった。

「10年後には100%の学生が海外経験」の中には、1カ月程度の短期の研修や留学も含むが、吉岡総長は「半期や1年間といった本格的な留学でなくとも、国内で同じような環境で生まれ育ち、友人同士で楽しく同質の中で生きてきた学生が、海外に出て、異質な環境を経験するだけでも有意義なことだ」と考える。

数値目標は大学にとっての指標に過ぎない

 もちろん「100%の学生の海外経験」だけでなく、海外の大学とのダブル・ディグリーやジョイント・ディグリープログラム、国際的な研究機関との共同研究プログラムの開発も推進する。

キリスト教聖公会のネットワークに連なる120超の教育機関との連携を深めるなどして、協定校を現状の133大学から、2024年度には300大学にまで拡大する計画だ。海外の大学・研究機関との質の高い交流実現のため、既に海外拠点をソウル、ロンドン、ニューヨークに開設、将来的にはASEAN地域や中国にも拠点を置く。

「100%の学生の海外経験は、大学が自らに課した指標に過ぎない。1人1人の学生にとって重要なことは、留学の希望を実現するために十分な語学力を習得できるか、単位認定などの制度が整っているか、ロールモデルとなる海外留学経験者や外国人留学生と接する機会があるかどうかということだ」と吉岡総長は言う。

「10年後のキャンパスでは、世界中から集まってくる外国人留学生や教員と、日本の学生がごく普通に、英語をはじめとするさまざまな言語で会話したり、議論したりするのが、日常の光景になっているはずだ」。100%を掲げたスローガン的な数値目標よりも、「日常にあるグローバル」の実現こそが、立教大学が目指す姿に違いない。

■大学企画トップページはこちら>>