かつては地元企業の茨城交通が運営する民営鉄道だったひたちなか海浜鉄道(写真:池口 英司、以下も)

茨城県ひたちなか市の勝田から阿字ヶ浦まで14.3kmを結ぶ第三セクター鉄道、ひたちなか海浜鉄道。2008年に公募で民間から選ばれた吉田千秋社長が「堅実経営」を進めてきた。レストラン列車のような非日常を演出するイベントで話題を呼ぶような派手さとは一線を画す吉田社長は、ローカル線経営の鍵はどこにあるとみているのか。前編「ローカル線をよみがえらせる『市民・行政・鉄道会社の良き関係』とは」に引き続き、吉田社長のインタビューをお届けする。

(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン)

鉄道を残した効果を数字で見えるように

──鉄道という交通機関には定時運行、高速大量輸送、接続する他路線との連携という大きな強みがあります。一方で、車両や、軌道などのインフラ維持にお金がかかります。妥協案として、専用道路を走るBRT(Bus Rapid Transit)というバスも出てきました。地方交通は、非常に難しい選択を余儀なくされているように感じます。2022年5月の記者会見で、JR西日本の社長が「今の芸備線のままというわけにはいかない。結果は出た」と述べています。

吉田千秋・ひたちなか海浜鉄道社長(以下、吉田):ローカル線をいかにして存続させるのか。それぞれの地域で何が最適なのか、やってみるしかないでしょう。ただ、四国の予土線であるとか、中国地方の芸備線を巡るJRの社長の談話が、「鉄道ありき」ではなくなっていることは考えさせられますね。

 もっともこういう談話は、口にする、あるいは文字にしてしまうと、非常に刺激的なものになってしまいますから、受け入れる私たちの側にも注意が必要なのですが。

 それでは鉄道を残すためには、どうしたら良いのか?

 例えば富山市では、廃止が決まっていたJR富山港線をライトレール(LRT)に形を変えて残したことで、「鉄道を残しました、そのことによって沿線に住民が住むようになりました、そのおかげで固定資産税に増収がありました」という図式が成立しています。他の地域でもそれを数字でも目に見えるようにすることが肝要かと思います。

 当社でも、2022年度(2023年3月期)はコロナ禍もあって1400万円の赤字となりました。

 ただ、沿線には新たに学校ができています。ひたちなか海浜鉄道の沿線にある5つの学校について市が統合を進め、新たに駅を作って鉄道で学校に通えるようにしましょう、という形に変えていったことで、大幅な赤字の軽減が実現しました。

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