神事にしきたり、ワカメと絡み合う日本人の食生活

日本の縁深き海藻、その歴史と現在(前篇)

2019.02.08(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要
『和漢三才図会』巻第97「水草 藻類 苔類」の分類にある「石蓴(わかめ)」の項目。

 また、塩蔵もワカメの保存法のひとつだ。海産物を塩蔵することは日本では1000年以上前からされてきたといわれ、もちろんワカメもその対象となってきた。生ワカメを塩漬けする方法に加え、現代に入ると1965(昭和40)年頃から、湯通ししたワカメを塩蔵する方法が編み出され、これが今の塩蔵法の主流となっている。

 食べ方にも目を向けよう。考古学者だった樋口清之は、もともとワカメは味噌の一種の醤(ひしお)や酢などをつけて食べるぐらいのものだったと述べている。その後、室町時代に茶懐石料理として、さまざまな野菜と煮あわせたうえでワカメを盛りつける料理が登場した。

 江戸時代中期の1712(正徳2)年に寺島良安が著した百科事典『和漢三才図会』には「石蓴(わかめ)」の項目がある。「炙り食ひ、又、刻みて醬油に蘸(ひた)し、或は臛汁(あつもの)に入るるも亦佳し」とある。「臛汁」は野菜な魚などを入れて作る熱い吸いもの。炙る、つける、入れると、さまざまな食べ方が確立していたのだ。

 気になるのは、今日の定番「ワカメの味噌汁」の誕生だ。これについては、少なくとも江戸時代にはすでに食べられていたようである。味噌汁そのものは鎌倉時代までに存在しており、それより前の平安時代から「味噌とワカメ」の組み合わせはあったという説もある。「味噌汁にワカメ」は早々からあっても不思議ではない。

天然から養殖への大転換に1人のキーパーソン

 ワカメ漁の形態は、現代に入ってから劇的な変化を遂げた。それは、天然ものの採取から人工養殖への移行という変化だ。

 1950年代に入るまでは、ワカメといえばもっぱら天然もの。船や桶に乗る海女たちが潜って採っていた。その後、1953(昭和28)年頃には、天然ワカメの生育を促す「増殖」の方法として、ワカメたちに着床してもらうための投石や、害をもたらす藻を駆除するための岩礁爆破などが水産庁から助言されていた。だが、効果はあまり芳しくない。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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