タンパク質も脂肪も一網打尽、小腸の巧みな栄養吸収

考究:食と身体(6)狩猟の神ディアナ篇

2018.09.28(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

 このカイロミクロンの表面は細胞膜と同じ成分、つまりリン脂質でコーティングされており、体液中を移動できる仕様になっているのだ。そして、カイロミクロンは毛細血管ではなく乳糜管(にゅうびかん)と呼ばれる毛細リンパ管へ送り出される。

 乳糜管に入ったカイロミクロンはその後、リンパ管 → 鎖骨下静脈 → 心臓 → 動脈、というルートを経由して、ようやく肝臓に到着する。

 つまり、糖やアミノ酸と異なり、脂肪は門脈経由の肝臓直行ルートではないのである(ただし、吸収の際に、脂肪の分解産物を取り囲んでいた胆汁酸は、門脈へ進む)。

小腸の技は巧みだが危険も

 脂肪の吸収において糖やアミノ酸と異なる点がもう1つある。肝臓に至る途中で、カイロミクロンが筋肉や心臓、脂肪組織へ脂肪を供給してしまうのである。つまりは、狩った獲物を、食肉加工場(肝臓)を通さずに、消費者(筋肉、心臓)や問屋(脂肪組織)に直接売りさばいているわけだ。そして、肝臓にたどり着いた売れ残り(カイロミクロン・レムナント)は、脂肪の新たな輸送小胞である超低密度リポタンパク質(VLDL)の材料として使われる。

 こうしてみると、獲物(栄養素)の特性に合わせて効率的に狩り(吸収)をするディアナの技法は、実に巧みというほかない。しかし、消化管は外部と内部の境界線にある。吸収器官である小腸においては、特に異物が侵入してくる危険性と常に隣り合わせである。密室トリックに不向きといっても、決して安全な場所ではないのだ。

 例えば、胃の強酸環境をくぐり抜けたバクテリアが、小腸内で大増殖したらどうするか。最悪、押し込み強盗事件(感染)に発展しないとも限らない。やはり、特別な警備組織、それも多様な侵入者にも柔軟に対応できる強力な部隊が必要である。

 次回は、そんな小腸の防御システムを紹介しよう。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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