茨城高専の世界最高度分析装置でイワシの生態解明へ

「弱」をつけられた魚の値打ち(後篇)

2018.07.20(Fri) 漆原 次郎
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 海水中における質量数16と質量数18の酸素同位体の比率については、平均値が割り出されている。一方、実際の海洋では、質量数18の酸素がやや多めに含まれていたり、逆に別の場所ではやや少なめだったりする場所も存在する。

 さらに、耳石に取り込まれる酸素同位体の比率は、生息場の水温によって変化する。海水温が低い場合には耳石中の質量数18の酸素の比率が多くなり、海水温の高い場合には逆に比率が少なくなる傾向があると知られているのだ。

 研究者たちにとってはありがたいことに、マイワシなど魚類の耳石には、酸素同位体比の日々の変化が記録されていく。つまり、マイワシの耳石を見れば、その個体が過ごした環境が見えてくることになるのだ。

 つまり、上で石村氏が説明するとおり、酸素同位体比の変化を調べることで、そのイワシが経験した海水温の変化を復元することができる。イワシの耳石の酸素同位体比は、ある特定の時期にそのイワシが何度の水温で過ごしてきたかを知る手がかりとなるのだ。他方、気候の研究などにより海水温の詳細なデータやモデルは揃っているから、それらも駆使すれば、イワシが一生においてどんな環境を経験するのか、つまり「全体の絵」を描くことが可能となるわけだ。

石村豊穂(いしむら・とよほ)氏(手前2人目)。国立高等専門学校機構・茨城工業高等専門学校准教授。博士(理学)。北海道大学大学院理学研究科博士課程修了後、産業技術総合研究所地質情報研究部門派遣研究員/特別研究員、北海道大学創成研究機構・JAPEX地球エネルギーフロンティア研究部門博士研究員などを経て、2012年より現職。専攻は安定同位体地球化学・微古生物学。高専の研究室で、専攻科2年の青野智哉さん(手前1人目)、日本学術振興会特別研究員の西田梢さん(同3人目)、専攻科1年の平尾萌さんと。

精密な手技と合わせて世界無二の技術が確立

 これまでも、酸素などの同位体比を分析するシステムはあった。だが、その分析の精度と感度は、小さな耳石からマイワシの詳細な回遊記録を描くうえで、決して魚類研究者や海洋研究者たちを満足させるものではなかった。

 そんな中、石村氏は自身の地質調査で試料としていた有孔虫の酸素同位体を測るため、分析装置を自分で開発していった。設計、製作、操作、プロジェクト監督、すべての役を一人で担ってきたという。「自分だけでやってきたので、かゆいところに手が届きます。分析のクオリティもこつこつと高めていきました」。

 その結果、他の研究者たちから「そんな高いレベルで測れるはずがない」と学会で言われるほどの高性能な分析装置が実現した。「既存の装置では通常は100μg程度の試料を必要とするところ、私の装置ならば通常で1μgほど、最軽量で0.2μgの試料さえあれば測れるレベルです」と石村氏は言う。これは、性能レベルが2桁以上、優れていることを意味する。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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