茨城高専の世界最高度分析装置でイワシの生態解明へ

「弱」をつけられた魚の値打ち(後篇)

2018.07.20(Fri) 漆原 次郎
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 魚の生態を調べるため、魚種によっては個体にタグを付けて生活を追跡する「バイオロギング」などの手法もとられている。だが、イワシの体は小さすぎてタグを付けることができない。生態把握で大切となる、孵化直後や稚魚の頃であればなおさらだ。

 現状は、人間がイワシという水産資源を保護しようとしても、何をどうすればよいのか、はっきりとは分からない状況といえる。

輪の刻まれる耳石から「全体の絵」を描く

 イワシがどんな環境で一生を過ごすのか。それを知る手がかりがイワシの体の中にある。耳石だ。

 耳石は、体の内耳という部分で日々分泌されている炭酸カルシウムが粒状になったもの。魚類だけでなく、我々ヒトを含む多種類の動物が耳石を持っている。

「耳石には木の年輪のような成長輪があります。耳石の酸素同位体比の変化を調べると、その個体の成長段階ごとの海水温の復元が可能となるのです」

 こう説明するのは、取材に応じてくれた茨城工業高等専門学校 化学・生物・環境系 准教授の石村豊穂氏だ。

 まず、耳石について。魚類の耳石では「日周輪」と呼ばれる日ごとの成長輪が作られていく。つまり「耳石のここからここまでの部分は、生後何日目から何日目までに該当する」と把握できるわけだ。

マイワシの耳石。日々、炭酸カルシウムが分泌されることにより、中心から外縁にかけて成長輪が加わりながら大きくなっていく。成魚の耳石の直径は2mmほど。(写真提供:石村豊穂氏)

 ここで知りたいのは、その「生後何日目から何日目まで」を、イワシがどんな環境で過ごしてきたのかだ。それを把握する手段となるのが、石村氏の言う「耳石の酸素同位体比の変化を調べる」という方法だ。

 酸素などの原子には、質量数の異なる「同位体」と呼ばれるものがある。たとえば、地球上の酸素原子の99%以上は、陽子と中性子を8個ずつ持つ「質量数16」の酸素で占められているが、わずかながら「質量数18」などの同位体も存在するのだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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