茨城高専の世界最高度分析装置でイワシの生態解明へ

「弱」をつけられた魚の値打ち(後篇)

2018.07.20(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要
(左上)耳石をドリルで削って粉末状にする装置「Geomill326」。石村氏の共同研究者が開発した。青野さんをはじめ学生らが削って粉末に。(右上)粉末の入った試験管。(右下)石村氏の開発した安定同位体分析装置「MICAL3」。
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 開発した同位体比分析装置は、水産資源の研究などをする東京大学大気海洋研究所や水産研究・教育機構などの研究者たちに知られるようになり、2010年頃から共同研究が始まった。

 研究相手の機関から、日周輪が明瞭に見えるよう磨かれた耳石を預かる。その耳石を、研究室の学生たちが高精度切削機を使って「生後何日目から何日目までの何日分」といった区分で削って粉末試料にする。従来は20日分などの長期日数でしか削ることができず、得られる水温変化のデータも大雑把なものだったが、研究室の学生が切削技術の向上に挑み、世界最短となる「3〜4日」という区分で試料を準備できるようになった。その粉末試料を小さな試験管のステージに載せて、石村氏の装置で分析するのだ。

「耳石を精密に削る技術と、同位体比を高精度に分析する技術の両方があって、世界で類のない分析が可能となりました」(石村氏)

「全体の絵」が共有される日は遠からず

 現在のところ、これほど高度な技術を持ち合わせているのは、世界においても茨城高専のみという。世界無二の技術を使ってイワシの「全体の絵」を描くための共同研究は、今まさに進んでいるところだ。

 日本海のマイワシについては、水産研究・教育機構や、鳥取、島根、富山の各県が名を連ねる「マイワシ検討会」に参画し、「マイワシの資源変動要因解析に向けた応用研究」を行っている。また太平洋を含む広範囲については、東京大学大気海洋研究所の海洋生物資源部門と「耳石の酸素安定同位体比を用いたマイワシの経験環境推定」の研究を行っている。

 マイワシの詳細な生態を述べる論文はまだ発表されていないが、「回遊履歴の解明は進んでいます」と石村氏は言う。「全体の絵」の最初の部分が社会で共有されるようになる日は遠くはなさそうだ。「マイワシをモデルケースとして、他の魚種全体に分析法を応用することも考えられます。水産資源や食文化の維持につながってほしいという思いはあります」。

 人間にとって、イワシは古くから親(ちか)しいと思える魚でありつづけた。「全体の絵」を手に入れることは、この魚との距離をいっそう縮められることを意味する。親しさの増した魚と今後どのように接していくか。そのことを考えるべき段階に私たちは入っているのだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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