米国の外交政策に揺さぶられる原油市場

皇太子外遊中のサウジ、事態がますます深刻化

2018.03.30(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52697
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 トランプ大統領の側近はほぼ対中強硬派となり、巨額の対中貿易赤字削減に関しては共和党も民主党もトランプ政権を支持している。米国が一枚岩となって中国を敵視することを中国政府はなんとしてでも回避したいところであろう。「中国政府は米国債の売却という切り札を持っている」との指摘もあるが、米国債の売却は米国経済よりも中国経済に大きな打撃を与えかねない。米国債の売却に伴い、中国当局は米ドルを人民元に替える必要があることから、人民元高・ドル安が進み、輸出主導の中国経済にとって大きなマイナスとなる。

米中貿易戦争で打撃を受けるのは中国側

 3月26日、上海先物取引所の子会社である上海国際エネルギー取引センターで人民元建ての原油先物取引が開始された。上海先物取引所は2001年から原油先物取引の検討を始め、2012年頃から本格的な上場準備に入り、2015年には秒読みとの観測が出たが、その後延期になったという経緯がある。取引開始日が米国が追加関税を発表した直後だったことから、「米国経済の強さを支える『ペトロダラー体制』に中国が風穴を空けようとしている」との憶測が出ている(取引開始前の式典で中国側は対米貿易交渉のキーパーソンである劉鶴副首相の名前をわざわざ挙げて米国を牽制する素振りを見せた)。

 世界全体の原油輸入総額が6701億ドル(2016年、原油の平均価格は1バレル=約44ドル)のうち、中国の原油輸入額は1166億ドルである。「原油取引決済の約2割がドルから人民元に代わる」というわけだが、わけだが、ストレージコスト(倉庫保管費用)が高い上「中国当局がいつ介入してくるか分からない」との疑念も強い(3月26日付OILPRICE)ため、人民元建て原油先物価格が国際指標の1つに順調に成長するとは言えないだろう。中国側は恒例の「はったり」戦略を採ったに過ぎず、ハードカレンシーとはお世辞にも言えない人民元でペトロダラーの座を奪おうという野望を本気で持っているとは思えない。

 2017年に世界最大の原油輸入国となった中国(日量840万バレル)にとって自前の原油先物取引所を持つのは自然の流れだろう。とはいえ、「米中貿易戦争の一環の措置である」と米国側が認識すれば、中国にとっては「百害あって一利なし」である。

「米中間の貿易戦争の勃発で中国側がより深刻な打撃を受ける」ことは専門家の間では衆知の事実である。債務の急増など深刻な難題を抱えている中国経済がなんとか持ちこたえているのは、巨額の貿易黒字がもたらす対外マネーの膨大な流入のおかげである。「米国の対中政策の歴史的な転換により中国の貿易黒字が減少する」との認識が広まれば、バブル崩壊を恐れた資金の大規模な流出が発生し、経済ばかりか共産党政権の崩壊にもつながりかねない危機となるだろう。中国の原油需要は急減すれば、主要産油国にとって悪夢以外の何ものでもない。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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