中国に奪われる可能性のある日本の食料

マッキンゼー「食料争奪時代」報告書を読む(前篇)

2017.12.08(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

「世界の食料需給は逼迫」に根拠ある異見

山田唯人(やまだ・ゆいと)氏。マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー。2010年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、同社に入社。おもにクロスボーダーのM&A戦略策定のプロジェクトに従事し、東京、東南アジア、欧州のオフィスにて勤務。最近では日本企業の新興国新規参入戦略に従事。2016年10月に同社が公表した報告書『日本における農業の発展、生産性改善に向けて』の作成にも携わる。

 日本の状況を見るには世界の状況を見ておく必要がある。そこで、山田氏らは世界における食料需給の状況を整理した。

 よく「今後、アジアやアフリカで人口が増加し、中国やインドなどでは所得が向上し、食料需給は逼迫してくる」という「通説」を耳にするが、今回の報告書では「通説」とは異なる予測を出している。

<世界全体で見ると、食料需要の伸びは、これまでのペースと同等にとどまると見込んでいる。一方、食料生産は今後も伸び続ける余力は十分にあり、量としては不足することはないだろう>(報告書より、以下同)

 どうして世界的には食料不足が起きないのか。山田氏は説明する。「まず、2030年における主要農産物の需要が2010年の1.5倍に拡大するという見通しを明確に立てました。一方で、私どもの世界的な農業状況を研究するグループから、現在の生産状況や技術革新の到来を考えると、食料がまったくもって不足する世界にはならないことが見えてきました」。

 だが、山田氏は、食料需要の増加に対する相対的な水不足には注意が必要と続ける。「コスト効率の悪い水資源確保を余儀なくされ、農業不適地にまで入り込まなければならなくなるおそれはあります」。

日本の食料確保、命綱は「輸入」

 日本の食料事情はどうなるのか。報告書では、<世界レベルで食料需給が逼迫する見込みがないからといって、日本の食料安全保障が不要になるというわけではない>とする。

 食料を確保のおもな手段は「生産」「備蓄」「輸入」の3つ。「日本では、この3つすべてに課題があります」と山田は指摘する。

「生産」については、農業従事者の減少と高齢化が著しい。農林業センサスによると、2015年での総農家数は約215万戸。10年前から約70万戸も減っている。平均年齢はゆうに65歳を超えた。「現状のままでは確実に生産が減っていきます」。

「備蓄」については、農林水産省の「緊急事態食料安全保障指針」で、米、小麦、飼料穀物の備蓄の活用方針が示されてはいる。だが、蓄えは使えばなくなるもの。「これだけでは食料は減っていき、不足してしまうおそれがあります」。

 そこで、山田氏らが特に解決を見出そうとしている課題が「輸入」だ。「小麦や大豆、それに主要な飼料用穀物のトウモロコシなどは、さほど日本の国土に適した作物とはいえません。国外でつくられたものを輸入するほうが経済的に成立しやすいのです」。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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