渋沢栄一が設立に寄与した東京瓦斯株式会社。(写真:国立国会図書館

 明治から大正にかけて活躍し、「日本資本主義の父」と呼ばれた実業家、渋沢栄一。生涯で約500の企業に関わり、約600の社会事業に携わった彼の考えは、現代になって改めて注目を浴びている。

前回の記事:「私たちはなぜ今こそ渋沢栄一の理念に学ぶべきなのか」

 中でも再評価されているのが、彼が生涯をかけて追い続けた「道徳経済合一」の理念だ。

「渋沢は、私利私欲ではなく公益を追求する『道徳』と、利益を求める『経済』が、事業において両立しなければならないと考えました。そしてそれを、実業家としてのキャリアの中で実践し続けます」

 このように話すのは、國學院大學経済学部の石井里枝(いしい・りえ)准教授。私利に走らず公益を追うのは、まさに現代に求められる考え方だ。とはいえ、道徳と経済の両立は簡単ではないはず。彼はなぜそれを実現できたのか。石井氏に伺った。

國學院大學経済学部准教授の石井里枝氏。東京大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。三菱経済研究所研究員、愛知大学経営学部准教授を経て現職。著書に『戦前期日本の地方企業‐地域における産業化と近代経営‐』(日本経済評論社)、『日本経済史』(ミネルヴァ書房)などがある。

公益の追求と利益を上げることは、どちらも欠けてはならない

――渋沢栄一が提唱した「道徳経済合一」とは、どんな考えなのでしょうか。

石井里枝氏(以下、敬称略) 経済活動において、公益の追求を尊重する「道徳」と、生産殖利である「経済」、すなわち仁義道徳と生産殖利とは元来ともに進むべきもの、ともに重視すべきものであり、どちらかが欠けてはいけないという考え方です。

 簡略にいえば、事業をする上で、常に社会貢献や多くの人の幸せの実現といった公益を追求しながら、同時に利益を上げていくという理念です。

 道徳と経済は、彼の言葉からすれば、あくまで並行すべきもの、イコールで結ばれるべき関係性で、どちらかが先になる、どちらかが優先されるものではないということのようです。

 道徳と経済がそもそも同じ位置にあり、一緒に進むべきものという考えなんですね。どちらが先に行くという話ではありません。