初めてこの本を手に取った時、あまり良い印象を受けなかった。「イェール大学出身であることを笠に着て英語の苦手な日本人相手にブランド商売をしようとしているのかな」と思ったからだ。
しかし、著者である斉藤淳さんにお会いして、その考えが全く間違っていたことを思い知らされた。もちろん、英語を教えることを生業にしているものの、単にお金が欲しいからではなかった。
日本という国を変えようという強い意志を持ち、英語はそのためのツールだと言うのである。
斉藤さんは日本に帰国してから政治家を目指した。衆議院議員として1年間、国会議事堂に通った経験を持つ。
しかし、その活動を通して、1人の国会議員として日本を変えようといくら努力しても、限界があることを思い知らされた。
政治家がこの国の大きな利権の1つとなってしまっていて、その村で改革を叫んでも簡単には変わらない。
それならば、自分が身につけた能力を最大限生かして日本を変えることはできないか、そう考えて英語塾を始めたと言うのである。
英語教育を通して日本の教育システムを変え、そして日本を変える。道のりは確かに長い。
しかし、斉藤さんに私淑する教え子が1人、2人と増えることで確実に改革の芽は育っていく。迂遠なようでも確実な道と言える。
もちろん政治を変えトップダウンで日本の改革を進めることも重要だが、実は斉藤さんが取り組むような地道な努力の積み重ねこそ、日本という国を変えるための近道ではないかと思うのである。
日本の大学が「教育」の役割を放棄したツケが不正問題に現れた
川嶋 斉藤さんは米イェール大学で政治学を教えておられたのに、帰国して私塾を開き英語教育を始められたというのはどういう経緯があったのでしょうか。
斉藤 帰国自体は主に家族の事情だったのですが、帰国後の仕事に関しては2つの選択肢がありました。大学で教える、もしくは独立して自由な活動をする、です。ただ、正直なところ日本の大学では教える気になれなかったので起業しました。
川嶋 日本の大学が魅力的でなかった理由は何でしょう。
斉藤 日本の大学生は全般的に学ぶ意欲に乏しいと感じます。高校まで強いられた競争の中で仕方なく勉強しているため、大学に入ると勉強する動機がなくなり、みんな学ぶことをやめてしまう。学ぶことに疲れてしまうんでしょうね。