バンコクから南南東へ165キロ。バンコクのエカマイターミナルからバスで約2時間半、欧米人に人気のリゾート地パタヤの北にシラチャという港町がある。ほんの5~6年前まではのどかな漁村という風情だったが、今や状況が一変している。新しいコンドミニアムが次々と建設され、真新しいレストランやクリーニング店、ビューティーサロンが毎日のように新規開業している。
バンコクの南にできた日本人街
その理由は、ここに日本人が押し寄せているからである。いつの間にか、静かな漁村が町になりそして今では人口が約20万人の立派な市となった。
この街で味楽亭という日本風居酒屋を経営する岡本忠則さんは、「シラチャに住む日本人は7000人と言われているけれども、実際にはすでに1万人は超えているだろう」と語る。
岡本さんはかつて、シラチャの町からほど近い工業団地にあるソニーの現地子会社で社長を務めていた。定年後に好きな釣りを楽しむためもあって、家族を日本に置いて再びタイにやって来た。
「4年前からだよ。急に人が増え始めたのは。バンコクのような渋滞とは無縁だったのに、今ではご覧のとおり、夕方になるとバンコク以上の渋滞に悩まされ、駐車場もなくなる」
シラチャとパタヤの中間にはタイ最大の貿易港、レムチャバン港がある。タイで生産した自動車などはその大半がこの港を経由して世界に輸出される。
近くには大規模な工業団地がいくつもある。岡本さんがかつて勤めていたソニーはその中の1つ、タイ最大のアマタナコン工業団地にある。
甚大な被害をもたらした一昨年の洪水の影響で、アユタヤなどバンコク北部の工業団地からこちらへ引っ越してくる日本企業も多く、シラチャ周辺は日本企業の一大集積地となっている。
最近では、スズキが新しく進出、三菱自動車も従業員を2倍に増やすなど日本車メーカーの増産ラッシュが続く。トヨタ自動車も近くにあるゲートウエー工場を大幅に拡張した。
こうした工業団地へ通勤するには、バンコクからだと大変な時間がかかる。多くの企業は会社が契約したバスを用意して朝と夕方に社員を送迎しているが、再び世界一へと返り咲いた悪名高いバンコクの渋滞もあって、年々“痛勤”ぶりはひどくなる一方。