中国の2013年1~3月期の国内総生産(GDP)は、前年同期比7.7%増(物価変動の影響を除いた実質)で、前期の7.9%増から減速した。上海でも景気はよくない。誰に聞いても「不好(よくない)」と言う。

 筆者は4月中旬、上海市北部の閔行区に住む友人李さん(仮名)宅を訪ねた。私の顔を見るなり「もう食べられる物がない」と不満をぶちまけた。

 鳥インフルエンザが蔓延する上海では、市民の台所から鶏肉が消えた。元凶と見なされる「生きた鶏」は殺処分された。

家禽売り場が雀荘に

 「ほら、この店も倒産しちゃった」

 彼女と歩いた航北路では、「生きた鶏」の専売店が、設備・備品はそのままの状態で夜逃げ同然で閉店していた。鶏の処分を命令された家禽の生産業者と販売業者は、政府からたった一度、500元の手当を受け取っただけだと聞く。今、どこでどんな生活をしているのか。

 豚肉はどうかと言えば、黄浦江に漂流した1万頭超の「死豚」の一件で、消費者からすっかり敬遠されている。3月上旬、豚の死骸が大量に川に投げ込まれたのは、「死んだ豚を再流通させていた仲介業者が捕まり、養豚農家からの引き取り手がいなくなってしまったからだ」と李さんは言う。最近の報道ではこれが最も有力な説となっている。死んだ豚も立派な商品だったのだ。

 牛肉はどうなの? と聞くと「これも勘弁だ」と言う。「数日前に買ってきた牛肉を焼いたら、10分の1ほどの大きさに縮んでしまった」というのだ。「全部水分だった」と李さんは呆れる。

 「タマゴも誰も買わなくなった」と言う。近所のカルフールでは、毎日、安売りのタマゴに早朝から老人が列を作っていたものだが、今では誰も買わない。人気だった安売りタマゴは夕方になっても山積みのまま残っている。

 鶏肉も豚肉も牛肉も、そしてタマゴもダメ。残るは魚と野菜だが、「重金属たっぷりの近海の魚」は、やはり敬遠される。一方で、野菜は急速に値上がりしている。ブロッコリーはこれまで500グラム3元(約48円)だったが、今は6元(約96円)に高騰している。「100元札は10元札程度の価値しかなくなった」と愚痴っていた彼女にとって、これはさらなる打撃だ。

 最近は飲用水の老舗ブランド「農夫山泉」が敬遠されている。なんでも取水場がゴミ処理上付近にあるかららしい。ここ上海では、もはや安心して口に入れられる食品はないと言ってよい。