シンガポールの炭素税については、2019年に導入され2023年まではCO2換算1トン当たり5シンガポールドル(580円程度)の低い水準にあったが、2024~25年に25シンガポールドル(2900円程度)へ、2026~27年に45シンガポールドル(5200円超)へ、そして2030年までに50~80シンガポールドル(最大9300円程度)まで引き上げる計画である。

 このようにあらかじめ引き上げ計画を示しておけば、企業も計画的に対応がしやすい。

 排出量取引制度の場合、最初の段階では企業負担を勘案して排出権を無償で配分するのが一般的なので、政府には歳入が入らない。しかし、排出権を無償から有償に切り替えて企業に配分するようになれば歳入が得られるようになる。

 日本でも、2050年にカーボンニュートラルを達成、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減するための政策手段として、2023年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)を成立させている。

 この下で、事業者が排出するCO2の費用を引き上げて、低炭素の製品や事業の相対的な付加価値を高めるためのカーボンプライシングを導入していく計画である。

 具体的には、GX-ETSに加えて、「化石燃料賦課金」と「排出量取引制度」の2つの仕組みを導入する。化石燃料賦課金については、2028年度から化石燃料の輸入事業者(すなわち発電事業者)等に対して、輸入する化石燃料の使用からのCO2排出量に応じてある種の輸入税を適用することになる。これはEUの国境調整税を参考にした制度になると見られる。

 一方、排出量取引制度については、2026年度から電力・鉄鋼・化学等、排出の多いセクターに対して本格的に稼働させる。そして、2033年度から有償オークションを通じた排出権の割当を段階的に導入する。

 当初はCO2の排出権を無料で配分するが、2033年度から一部有償にして排出権を割り当て、その排出権に応じて特定事業者負担金を徴収する計画である。

 日本が想定する炭素価格はかなり低い(賦課金制度では10~20ドル前後)との指摘もあり将来的に見直しが必要になるかもしれないが、世界のトレンドに合わせてカーボンプライシング制度を拡充していくことにはなる。

<連載ラインアップ>
第1回 気候変動対策として、各国はなぜ温室効果ガス排出量「正味ゼロ」を目指すのか?
第2回 世界三大格付け会社が警告、気候変動への対応力が「企業の信用」に直結する理由とは?
第3回 欠かせないのは短期・長期の視点、現代の企業経営に重大な影響を及ぼす3つの気候変動リスクとは?
第4回 企業はなぜ、「バリューチェーン全体」の温室効果ガス排出量に目を配る必要があるのか
第5回 温室効果ガス排出削減の新たな指標「削減貢献量」に企業が注目する理由とは?
■第6回 企業の環境経営を促す「カーボンプライシング」、今から検討すべきビジネスモデルの変革とは?(本稿)


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