どれだけ炭素価格を引き上げる必要があるのか

 では、一体どれだけ炭素価格を引き上げる必要があるのだろうか。国際エネルギー機関(IEA)は、世界平均気温上昇を1.5℃に抑制するパリ協定目標を実現するために必要なCO2換算1トン当たりの価格を試算している(IEA 2021)。

 単純化すると、将来必要な炭素価格は、2030年に130ドル(2万280円)程度、2050年には250ドル(3万9000円)程度となる。途上国はこれらのドル価格よりも低い価格が想定されている。

 このため、今後、各国は炭素価格を段階的に引き上げ、同時に適用対象とする排出の多いセクターを増やしていくことが期待されている。

 カーボンプライシングが世界各地で導入され拡充していくことで、温室効果ガスの排出が多いビジネスモデルは採算がとりにくくなる。このため、企業は化石燃料にあまり依存しない生産・営業体制を今からどのように整えていくかを検討し始めたほうがよいであろう。

 ただしカーボンプライシングによって炭素価格が引き上げられるといっても、将来ずっと引き上げが続くわけではない。企業による大幅な排出削減を誘導するのに必要な炭素価格水準まで引き上げられれば、それ以上の引き上げは必要なくなるからだ。

 価格が上昇している局面で一時的にインフレが高まると理解しておくとよい。また再生可能エネルギーや低炭素エネルギーをもっと多く使い、そうしたエネルギーの供給費用が技術革新や規模の経済性によってもっと下がっていけば、炭素価格の大幅な引き上げは避けられ、インフレの抑制にもつながっていくと考えられている。

 カーボンプライシングは、主に炭素税と排出量取引制度で構成されている。炭素税は排出量の大きさに比例して課税するのですぐに税収の増加につながり、その歳入を排出削減のための補助金や低所得者支援に使うことができる。