ChatGPTをはじめ、世界にさまざまな衝撃を与えている生成AI。すでに業務やサービスへの実装が始まっており、今やその活用が経営のトップアジェンダになりつつある。生成AIの導入にあたり、事業や組織をどう変革していけば、生き残ることができるのか。本連載では、生成AIが巻き起こす市場の大変化とその対応策を経営者目線で解説した『AIドリブン経営 人を活かしてDXを加速する』(須藤憲司著/日経BP、日本経済新聞発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第2回は、医療、金融など特化型AIの開発に不可欠な「ドメイン知識」について解説する。
<連載ラインアップ>
■第1回 DX推進によって、なぜリクルートのP/L構造は大きく変化したのか?
■第2回 「現代のアインシュタインやダ・ヴィンチを手助けする」エヌビディアCEOの発言の真意とは?(本稿)
■第3回 「じゃらんnet」はAI機能を搭載し、「顧客の悩み」をどう解消したのか?
■第4回 実例で解説、Salesforce、EvenUP、Notta…先進企業のAI活用戦略とは?(8月27日公開)
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■ 百聞は一体験にしかず
生成AIの代表、チャットGPTは例えるなら、ハーバード大学出身で50カ国語を話せる優秀な新入社員です。しかし、いきなり即戦力になり得るかと言えばそうではありません。
即戦力になるためには、その業界や領域に関する知識や商習慣、職種に関する業務理解や関係性の理解を持っている必要があります。ソフトウェア工学の用語で言うとそれは「ドメイン知識」です。
ドメイン知識とは、特定の領域や分野に関する専門的な知識や理解のことを指し、ある特定の分野において必要とされる情報、概念、用語、プロセス、ルールなどが含まれます。この知識は、各分野において意思決定を行ったり、問題を解決したりするために必要な基盤となります。
特に、AIや機械学習などの技術を活用する場合、その分野に関するドメイン知識を持つことは非常に重要です。例えば、医療AIを開発する際には医学の知識が必要であり、金融AIを開発する際には金融の知識が欠かせません。技術とドメイン知識を組み合わせることで、現実の課題に対してより効果的な解決策を提示できるようになります。
そのため、単にAIを導入するだけではなく、ドメイン知識をどうAIに教えるか、トレーニングさせるかが大事になります。
そんなドメイン知識を生成AIに学習させる方法にRAG(Retrieval-Augmented Generation)という技術があります。
RAGは、AIの生成モデルに外部の情報を取り込み、より正確な回答や情報を生成する技術です。生成AIモデルの精度と信頼性を向上させ、誤回答を減少させるために利用されます。具体的には、外部の知識源からデータを取得し、それを生成モデルに組み込み、より適切な回答や文書を生成します。
このRAGを使って、私たちはそれぞれの企業でその企業特有のデータを生成AIに学習させた、AIのモックを提供するということを始めました。このモックを触るとたいていの企業で「こんなこともできるんですか?」と驚かれます。
ドメイン知識を学習させた生成AIを実際に触ってみると、これができるのであれば、あんなこともできる、こんなこともできるというユースケースがすぐにたくさん思い浮かんで来ます。
百聞は一見にしかずと言われますが、まさに百聞は一体験にしかずです。
自社独自のユニークなデータ=ドメイン知識×その企業ならではの強み
を人間だけに使わせるのか、それともAIにも触らせるのかという判断に、AIドリブン経営の実現に向けた最初の大きな論点があるということになります。