全自動化を目指したシステムの概要

「次世代システム」は図のような構成である。ERP(統合基幹業務システム)であるSAP S/4HANAを中心に、需給計画を管理するSCM(サプライチェーンマネジメント)と、営業関係を管理するCRM(顧客情報管理)システムが日々の業務管理を担っている。そして、このシステムで日々発生するデータを活用するために、DWH(データウエアハウス)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールから成る統合分析基盤も稼働している。

次世代システムの概要

2018年10月から早期に高い導入効果を期待できるSCM構築に着手。これで需給計画業務の標準化・効率化を図る。続いてCRM、2020年2月よりデータ集約とデータの見える化を目的にした統合データ基盤、ERP、統合マスタの導入を並行して推進。2022年5月には「次世代システム」としての本稼働がスタート。複数のシステムを連携させる大型プロジェクトであり、プロジェクトの中盤では新型コロナウィルスのパンデミックも発生。ほとんどのタスクがリモートでの作業になったが、計画通りに遂行した。
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「脱エクセル」の働き方で非効率業務を廃止し、生産性2倍へ

 次世代システムの導入完了から1年余り。すでに数々の成果が報告されている。全社として1人あたり売上高が2倍になり、半導体の調達計画業務(SCM)でいえば、業務の約90%、7万件にも上る案件ごとに個別にエクセルで実施していた需要予測・調達計画業務がシステム化されたことで、エクセル作業から解放された。結果として調達計画業務における社員1人あたりの取り扱い案件数は以前に比べ約3倍に伸びている。

 顧客との接点となるCRMでも成果が出ている。問い合わせ窓口やマクニカからの情報発信機能を具備したポータルサイトは、目下900社が利用中だ。問い合わせ対応などの業務に追われていた社員たちの工数は年間4000時間近く減少。見積作成や問い合わせ回答のリードタイム短縮により、顧客満足度も高まっている。

 そして、受発注から在庫管理・請求・保守などの定型業務をERPに置き換えた成果も確認できている。かつて社内で飛び交っていた紙伝票が2万件以上削減され、1000本以上もあった社内のエクセルのレポートは40本にまで定型化して減らすことができた。前述したようにレポート作成のために2週間ほどかけていた現場もあった。社員たちのワークスタイルは大きく変わった。

 興味深いのは、データの連携がスムーズにできるようになった結果、仕事の「質」も高まってきたことだ。

 日系ビジネスにおける主要仕入先の取り扱う半導体関連製品の90%以上で、需要予測精度の誤差が10%以内に収まるようになった。予測の精度が上がった結果、必要以上に在庫がある、売りたいときに在庫がない、といった状況を防ぎ、半導体を安定的に供給することに成功しており、事業の収益性にも貢献するようになってきた。

※国内での拡販活動をマクニカが実施、またはマクニカが仕入先より移管を受けたビジネス

 この他、属人的に対応していた個別の業務、暗黙知化していたノウハウを標準化できたことも仕事の「質」的には大きい。データを作る作業から解放された社員たちがより付加価値の高い仕事に就くことできるようになったのだ。

取引高がさらに倍増しても、今のシステムで対応できる

 2020年から2023年にかけて、半導体の取引高が急騰したこの時期も、マクニカでは取扱量の増加に合わせて大幅に増員することなく業務を遂行できた。「今後取引高がさらに倍増したとしても、現在の要員を大きく増やすことなく対応できるでしょう」と安藤CIOは自信を見せている。

 さて、冒頭でも触れたが、大きな成果を上げた「次世代システムの導入」は、マクニカが2018年から取り組んでいる長期間のIT・DX改革にとっては「第一幕」「STEP1」の位置付け。IT・DX改革は2023年から「STEP2」段階に入り、数々の施策に取り組んでいる。次回以降は、現在進行している社内の数々のプロジェクト、施策について追っていく。

連載ラインアップ
■第1回 売上高が2年で倍増し1兆円突破、マクニカの躍進支えた「10年後も楽しく働く」ための次世代システム(本稿)
■第2回 「成長」の次は「改革」へ投資、マクニカが目指す「稼ぐIT」とは?
■第3回 今のままではIT部門は不要に・・・CIOの危機感から生まれたマクニカの「アジャイル型組織改革・人財育成」
■第4回 「稼ぐIT」をどう実現? マクニカが挑む「6つの新規事業」と専門家集団「DXファクトリー」構想とは
■第5回 マクニカCIO・安藤啓吾氏が語る、「IT改革」の3つの施策、「稼ぐIT」への挑戦、そして「2030年の到達点」
■第6回 マクニカCIO・安藤啓吾氏が語る「稼ぐCIO」の条件、「デジタル人材」に必要な3つの力とは?

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