デジタル証券、デジタル通貨の発行基盤を提供する「Progmat(プログマ)」が始動した。大手金融機関が系列の枠を超えて参加した同プロジェクトの実現には、利害関係の調整はじめさまざまな苦労や困難があったことは想像に難くない。各社はそれをどう乗り越えたのか。Progmat CEOの齊藤達哉氏ほか、資本参加したみずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループのキーパーソンを迎えて、企業変革に成果をもたらす考え方や行動について聞いた。
STの発行実績を踏まえ今後の市場発展を各社とも模索していた
――三菱UFJ信託銀行(MUTB)からProgmatのコンセプトについて提案を受ける以前は、デジタルアセット市場の動向についてどのような見通しを持ち、自社の課題についてどう考えていましたか。
緒形千恵氏(以下敬称略) 当行でもいかにデジタルアセット分野を発展させていくかを研究しているところでした。実際にお客さまの方でも実績が出てきていて、受託のニーズもいただいていたので、社内の体制整備を進めるべく、法規制への対応や市場調査を行っていました。
ただ、なかなか具体的に把握しきれない部分もあり、先行する他行さんと情報交換したいと思っていたタイミングで、MUTBさんにお声がけいただきました。
田中聡氏(以下敬称略) 三井住友信託銀行としてもセキュリティートークン(ST)の発行自体は手掛けていて、その中でいろいろな課題が出てきていたタイミングでした。
当社はMUTBさんのProgmatのようなデジタルアセットの発行基盤は持っていなくて、野村グループのBOOSTRYや、海外でSTO発行実績があり当社も出資もしているSecuritizeなど、発行者や販売先に合わせて利用するプラットフォームを選択していく方針を取っていました。そうした中でいかに差別化を図り、当社としての強みを発揮していくのかを検討していた矢先にMUTBさんから連絡があり、「これは何かあるな」と思いましたね(笑)。
下入佐広光氏(以下敬称略) STの発行については、グループ会社のケネディクスや三井住友ファイナンス&リース(SMFL)などを通じて実績があり、SMBCグループが保有するアセットを流動化させるビジネスはこれまでもやってきたことです。
デジタル証券もその手法の1つであると捉えていて、将来的には銀行でも自分たちのアセットをSTの形で販売することが考えられます。
デジタル証券という新しい領域を発展させる上ではセカンダリーマーケット(流通市場)の育成が不可欠と考え、私設取引システムを運営する大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)にも出資しています。
発行基盤についてはこれまで議論もあったのですが、そうしたインフラ領域を1社単独でやるのはマーケット発展の阻害要因にもなり得るため、共通領域であるべきだとの認識がありました。
プラットフォームの乱立は良くないので、ある種の共通基盤をつくるという発想は“あり”だろうということで、どういう戦略を取るかちょうど考えているところでした。