人事院 総裁の川本裕子氏(撮影:宮崎訓幸)

 民間出身の川本裕子氏が人事院で2人目の女性総裁に就任し、2年がたった。着任後から働き方改革を提言・着手してきたが、そこには霞が関で働く国家公務員の担い手の減少も背景にある。また国家公務員における女性職員の採用比率は令和5年度で38.7%に及び過去最高を記録しているが、管理職の登用については十分に進んでいないという現状もある。人事行政に関する公正の確保や国家公務員の利益の保護を目的に設けられている人事院だが、どのような取り組みがなされているのだろう。女性活躍を支える環境づくりの現状などについて川本氏に話を聞いた。

男女役割意識が強い日本社会

――本日は女性活躍をテーマにお話をうかがいますが、川本総裁はご自身のキャリアをどうお考えになってこられましたか。

川本裕子氏(以下敬称略) 男性であろうと女性であろうと実績で評価される企業で働いていた当時は、仕事をする上での男女の差をあまり意識することなく、仕事にまい進してきました。その後、政府の委員会の委員としてお声がけをいただくようになりましたが、どの委員会でも「女性委員」と呼ばれ、そこで改めて私は“女性”の委員なのだと実感しました。

 人事院に来る前は、アカデミアの世界にいましたが、専門分野によっては女性が少なく、ともすれば門戸自体が開かれていないのではないかと感じることもあり、どうすれば女性が活躍できる社会になるのだろうと考えるようになりました。

川本 裕子/人事院 総裁

東京都出身。1982年東京大学文学部を卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1988年英オックスフォード大学修士修了後、マッキンゼー東京支社に入社。2004年早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、2016年早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授、2020年早稲田大学ガバナンス&サステナビリティ研究所所長に就任。2021年から現職。国家公安委員会委員、金融審議会委員などを歴任。

――女性活躍の必要性をどう感じていらっしゃいますか。

川本 日本社会においては、意思決定メカニズムの中に入っている女性が圧倒的に少ないと感じています。日本国民の半数は女性なので、意思決定メカニズムとしてもその割合に近い状態が健全だと考えます。国民の半分を占める女性の能力が十分に活用されないことは、日本社会全体にとって大きな損失だと思っています。

 非常に高い教育を受けて、知的に優れた人たちが家庭以外のところで価値を発揮する機会が限られてきた時代が長く続きすぎました。現在も本来のあるべき姿からは程遠いです。男性は仕事、女性は家庭という極めて強い男女役割意識の中で女性の働き方が規定されてきたからでしょう。

女性に家庭責任を負わせない。そのためには男性の家事進出を可能に

――国家公務員の現状はいかがですか。

川本 国家公務員の女性比率は、採用段階では4割近いところまできています。しかし振り返ると、総合職試験(かつてのⅠ種試験)の採用者において女性比率が2割を超えたのは2005年で、3割を超えたのは2015年です。女性比率が上昇しているのは最近のことであり、管理職や幹部の状況を見ると女性職員の母数がそもそも少ない状況です。例えば、2022年7月時点での本省係長相当職の女性比率は28.3%、本省の局長などの幹部級になると5.0%です。

――このような現状を改善するためには何が必要でしょう。

川本 まず、長時間労働を前提としない職場環境にしていくことが重要です。ライフスタイルや価値観の変容もあり、女性だけが家庭責任を負う社会ではなく、当然男性も含めて、家事、育児、介護などの事情も踏まえて働くことができる環境を整備していくことです。

 また、適正な人事評価が行われることが必要です。これまで日本の多くの組織では、女性は実績で評価されて、男性は将来性や可能性で評価されるといわれてきました。平等・適正に評価を行い、性別を問わず同じベースで投資することが大事です。