セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)とイオン。日本を代表する2大小売りチェーンは2023年2月期決算で過去最高の売上と利益を出した。だが、今の日本は小売りチェーンにとって決して恵まれた環境とは言えないし、将来も明るいとは言えない。そうした状況をセブン&アイとイオンはどう乗り越えようとしているのか。

シリーズ「日本を代表する2大コングロマーチャントの歴史に学ぶ」
【前編】コンビニのセブン&アイ、生活フルカバーのイオン、両者が違う道を歩んだ理由

【後編】セブン&アイとイオン、「五重苦の日本市場」で進める成長戦略はどこが違う?(本稿)

シリーズ「なぜ今、業態でなくフォーマット開発が必要なのか」
できるたびに企業が強くなる、ワークマンのフォーマット開発の取り組みと成果
大創産業「スタンダードプロダクツ」、強みを生かした新フォーマットの作り方


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 現在の日本市場は既に衰退傾向にある。少子高齢化は進み、円安ドル高、賃金水準は思うように上がっていない。具体的には以下の五重苦が挙げられる。

(1)市場縮小
(2)競争激化
(3)人手不足
(4)原材料費・水光熱費・設備費高騰
(5)脱炭素・リサイクルなどの環境対応

 (1)の市場縮小と(2)の競争激化は「限られた市場をどのように深掘りしていくか」「競合との差別化をどのように進めるか」という、いわばマーケティングの問題だ。(3)の人手不足は省力化、効率化、(4)の原材料費・水光熱費・設備費高騰はコストコントロール、商品調達の見直しといった対応が必要。(5)はここ1、2年で経営課題の上位に挙がってきた課題だ。

 セブン&アイとイオンはこの五重苦をどう乗り越えていこうとしているのだろうか。

イオンはリアル店舗とネットスーパーでシェアを高める

 「イオンの歴史は、合併の歴史」であることは前編で紹介した。イオンが総合スーパー、スーパーマーケット、ドラッグストアの各小売事業で国内のナンバーワンとなった原動力は合併にある。2024年に中四国のチェーンであるフジとの合併が予定され、今年4月にいなげやとの経営統合を発表したように、イオンは合併の歴史をさらに積み重ねていくだろう。

 縮小する市場の中で地域の小売企業を傘下に収め、事業拡大。堅実な需要が見込める総合スーパー、スーパーマーケット事業ではさらに国内シェアを高める戦略をとる。

 イオンは総合スーパー店舗の「イオンスタイル」への転換を進めているが、このフォーマットの特徴はファミリー層を対象とした「商品やサービスを通して生活の“スタイル”を提案する」コンセプトにある。これには食品を中心にヘルス&ケア、ホームファッションなど地域の生活シーンに合わせて専門性を高めることで、国内シェアを高めようという狙いがある。

 小売りにとって最重要課題であるネットスーパーの分野では、7月に新しいネットスーパー「Green Beans」の拠点であるCFC(顧客フルフィルメントセンター)を千葉県誉田で稼働させ、日用品、食品、生鮮食品を取り扱う。イギリスのテクノロジー企業のオカドとの提携によるもので倉庫内作業の自動化を進めたが、これは人手不足問題の解決につながる取り組みだ。また、鮮度維持技術を取り入れた商品化、サプライチェーンの仕組みも構築されることで、鮮度がネックとされた生鮮食品のネットスーパーサービスを大きく前進する。CFC自体が太陽光発電、蓄電池を用いた再生エネルギーを使って運営されるため、CO2の総排出量を抑えながらの事業展開となる。

 このサービスは当面、店舗網の薄い首都圏を対象にしており、リアル店舗の出店を待つことなく、巨大消費地の首都圏の顧客獲得を目指している。ネットスーパーのブラッシュアップは先述の五重苦の課題解決には欠かせない戦略であることをイオンの取り組みは示している。