<DX企画・推進人材のための「顧客価値提供力養成講座」>
■第1回 データやデジタル技術よりさらに大切、DXの成功に最も欠かせないことは何か
■第2回 店で勧められた電気ストーブ、買うと決めたけど高かったらあなたはどうする?
■第3回 価格競争で窮地の居酒屋が編み出したウルトラCの仕入コスト削減方法とは
■第4回 効きそうだけど高いシャンプー、髪に悩む人が思わず注文してしまう勧め方
■第5回 ECサイトで靴や服は売りにくい、そんな悩みをすっきり解決させた制度とは
■第6回 競合に値下げを挑まれた書籍ECサイト、苦境を救った価格を下げない秘策とは
■第7回 人気ECサイトが直面した壁、「商品が多くて選べない」を解決したある方法
■第8回 競合の配送料値下げに無料で対抗、それでも利益を出したECサイトの逆転発想
■第9回 売れなかったサービスが一躍ヒット、お客の心を開かせた提案はどこが違う?
■第10回 人気凋落プロレス団体を蘇らせた思いがけない方法、ファンはこれを求めていた
■第11回 人気復活のブロック玩具に大人も虜、新商品開発に加わった意外な助っ人とは
■第12回 客数が落ち込みピンチの遊園地は、どうして奇跡のV字回復を遂げられたのか?
■第13回 競合店の襲来にコーヒーショップが打ち出した「価格を下げない対抗策」とは
■第14回 客足鈍った観光地が復活、地域イベントを「流行の先端」に変えた大きな力とは
■第15回 経営難の登山用品メーカーが復活、お客が飛び付いた「商品の意外な要素」とは

 DX企画・推進人材が身に付けるべき「顧客価値提供力」はどうすれば養成できるのか? DXやデジタルビジネスの成功事例には、「顧客価値を高めるビジネスの仕掛け」がうまく使われている。本連載では、顧客価値を高める9の方法をテーマに、ビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説する。

 顧客価値を高める9の方法は以下の通り。

 前回に続いて、今回のテーマも「9. 共感できる、人助けができる、社会課題解決」である。これら3つは「価値=ベネフィット÷コスト」の式に従うと、「8. 楽しい、珍しい、はやっている」と同様に、「感情ベネフィット」を上げる手段となる。

 今回は2つ目の手段である「人助けができる」の意味と活用法について説明する。

「人助けができる」とお客は満足感を得る

 「人助けができる」は、ビジネスにおいて顧客価値を高める要素となる。自分の消費行動を通じて「人を助ける」という社会貢献ができることでお客は満足感を得る。これが、購買動機を高めるのだ。

 この例には「マッチング寄付」がある。これは、お客の寄付に加え、企業が同額(同額以外の場合もある)の援助資金を、それを必要とする団体に寄付するというもの。これにより、お客は「人助けをしている」という喜びを感じることができ、マッチング寄付制度を導入している企業との強固な絆が育まれていく。

 例えば、あなたは「何か面白い買い物をしたいとネットを物色している」とする。お酒、甘いもの、肉や魚などを探すが、どれもありきたりで面白くない。そこで「体験価値 高い 買い物」で検索すると、あるECサイトが見つかった。それは、賞味期限の短い食品をメーカーから仕入れて販売するサイトだった。

「食品メーカーから賞味期限が近く廃棄されるはずだった商品を仕入れて販売。フードロス問題に立ち向かう」と書いてある。あなたは興味深くサイト上の食品をチェックする。「賞味期限が近いのは気になるけど、廃棄はな・・・」「賞味期限が近い割には値段が安くない・・・」と思いながら説明を見る。

 すると、「価格の10%は寄付され、弊社も同額寄付します」と赤い文字で書いてあった。あなたは、このサイトを運営する企業に関心を持ち、寄付先団体の活動を読み、晴れ晴れしい気持ちになって注文ボタンを押す・・・。これが、消費者から見た「人助けができる」の一例である。

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「買うと寄付、商品の代わりに寄付」というビジネスの仕掛けを知る

 「人助けができる」という顧客価値を高める手段をビジネスに生かすには、「買うと寄付」や「商品の代わりに寄付」が有効である。前者は商品やサービスをお客が購入すると一部が寄付に回るものであり、後者は、例えばルーレットを回し当選した商品の代わりに寄付をするような仕組みだ。

 こうした商品を購入すると一定の割合が社会的な活動に寄付されたり、当選した商品に代えて寄付をする仕組みは、お客に「他者を助けることができる」という充足感を提供する。この充足感が、お客の満足度やブランドへのロイヤルティを向上させる。

 この事例を紹介しよう。

・飽きられてしまったアプリの機能

 あるスポーツクラブが健康増進アプリを開発してお客に提供した。そのアプリには、歩くとポイントがたまり、1週間ごとに指定ポイント数に到達するとコーヒーショップのチケットや健康ドリンク、健康に良い食べ物などの商品が当たるルーレットを回せる仕組みがあった。

 当たった商品はコーヒーショップやコンビニで交換でき、お客は特にコーヒーショップの交換チケットを欲しがったが、なかなか当たらず、他のドリンクや商品が当たることが多かった。

 最初のうちは物珍しさもあって人気のアプリだったが、毎週ルーレットを回せるので、お客は次第に飽きてしまい、商品の入れ替えを要望するようになった。

 だが、商品を頻繁に入れ替えても、お客はしばらくすると飽きてしまうようになり、次第にこのアプリの人気は下がっていった。人気を取り戻そうと商品を入れ替えるが、また飽きられるというスパイラルに陥ってしまったのだ。

 スポーツクラブの社長は、このアプリの人気を上げようとさまざまなアイデアを考えたが、うまくいかなかった。そこで、良い方法がないか、聞くことにした。聞いた人は2人。1人は他社で商品のバイヤーをしているAさん、もう1人はボランティア活動をするBさんだった。