DX企画・推進人材が身に付けるべき「顧客価値提供力」はどうすれば養成できるのか? DXやデジタルビジネスの成功事例には、「顧客価値を高めるビジネスの仕掛け」がうまく使われている。本連載では、顧客価値を高める9の方法をテーマに、ビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説する。

 顧客価値を高める9の方法は以下の通り。

 今回のテーマは「4.品揃えが多い、選びやすい」である。顧客価値を高める手法としての品揃えが多いとは、売り場における商品やサービスの種類や数の多さを意味する。それが顧客価値にどのように影響を与えるのか。最初に、これに関する事例を紹介したい。

競合に低価格で挑まれたECサイトは何をした?

 ある国にインターネットで本を売るECサイトのA社があった。最初はリアルの本屋との差別化に苦しんでいたが、本の種類を増やす、一定金額以上で送料無料、お急ぎ配達などの諸策を実施するうちに利便性を認知されるようになり、売り上げが増えるようになった。

 あるときから、商機を見いだした他のECサイトが市場に参入し始めた。競合ECサイトはA社を模倣した上、さらに価格を下げたり、割引制度を充実させたりしたので、お客は競合に流れ、A社の優位性は低下してしまった。

 困ったA社の社長は、どうすれば優位性を持てるかを考えたが、良い考えが浮かばなかったので社員に考えてもらうことにした。聞いた社員は2人。1人は前職で商品仕入部門のマネージャーをしていたAさん、もう1人は前職で店舗での接客をしていたBさんだった。

 Aさんは「お客さまはECサイトに低価格を求めている。競合が低価格である以上、こちらも低価格にする必要がある。価格を下げる、割引を行う、バーゲン期間を設けるなど、価格を安くすれば顧客価値は増す」と主張した。

 一方、Bさんは「デジタルで売るECサイトは売り場面積の制約がなく、商品をいくらでも増やせる。品揃えが多ければ、それだけお客が望む商品も多くなる。価格を下げなくても競合にない商品を増やせば顧客価値は増す」と主張した。

 社長は、Bさんのアイデアを採用することにした。以降、A社のECサイトは、本だけでなく、他の商品を数多く売るようになった。

 すると、お客から品揃えがすごいと評価されるようになった。それを見た世界中のECサイトがまねをしたが、A社の先行メリットは大きく、他の追随を許さなかった。

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 一般に、品揃えが多いことは、顧客価値の向上に大きく影響する。なぜなら、品揃えが多いほど消費者は多くの商品・サービスの中から自分が好きなもの、ニーズに合ったもの、課題(ペイン)を解消できるものを選ぶことができるからだ。これが「品揃えが多い」の価値である。