筆者は現在、事業会社でデジタル戦略の立案、執行を担当し、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修も実施している。この仕事を通じて、多くの人から聞かれることがある。それは「DXの推進担当になったが、何を学べばよいか分からない」ということだ。

 この答えは簡単で、それは「データ、デジタル」、特に重要なのは「ビジネスの仕掛け」である。世の中が変わり、これまでの知識やスキルではビジネスに対応できなくなっている。そのため、「ビジネスの仕掛け」を学ぶことが必要になっているのだ。

 「ビジネスの仕掛け」とは筆者が使っている言葉で、ビジネスモデルやマーケティング、消費者行動と価値の変化(モノ消費→コト消費など)などビジネスに影響を与える要素のことだ。例えば、簡単なものでは地域限定ビジネスをする企業が全国に商圏に広げるために使う「商談や受注のオンライン化」がある。

 高度なものでは、プラットフォーム、シェアリング、クラウドファンディング(買取型)、顧客ロイヤリティプログラムなどがあり、ビジネスの仕掛けは、新しいビジネスを行う場合の手段となる。これら「ビジネスの仕掛け」について、DXにどのように関係するのか、どう使うと良いのか、どうやって学ぶのか、これが本連載のテーマである。

欲しい商品やサービスは国を越えて買う、使う

 現在、DXが注目されているのは、世界的なビジネス変革の流れを受けてのものだ。世界規模の企業がデジタルを使った商品やサービスを開発し日本に提供。それを多くの日本人が購入しているため、新しいことに対応できない国内企業がディスラプト(破壊)される状況になっている。

 この背景には、消費者の行動が変わり、「自分が欲しい商品やサービスは国を越えて買う、使う」という変化が挙げられる。それを可能にしたのが、「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」であり、各企業が、自社のビジネスを「データ、デジタル、ビジネスの仕掛け」で強くせざるを得ない状況が発生している。

 つまり、インターネットの普及により、消費者の商品・サービス選定の幅が広がったことで、消費行動が変わり、ビジネスのやり方も変わったことで、それに対応する新しい知識やスキルが必要となったわけだ。

 ビジネス環境は「作り手志向」から、「消費者志向」に大きく変化した。作って店に置けば売れる時代は過去のものになり、現在は「消費者が欲しい、これいいな」と思う商品やサービスでないと売れない時代になっている。

 また、商品・サービスは「単体機能価値」から「総合体験価値」に変化している。例えば、冷蔵庫では「冷やす」という単体機能価値から「1週間分の材料から共働き子育て世帯向け用に時短メニューを提案する」など、顧客のペイン(悩み)を解消する体験価値が求められるようになってきた。

 さらに、商品・サービス作りでは「企業内完結」から「消費者参加型」に変化し、工事作業服などを企画製造販売していた「ワークマン」は、それまでと異なる顧客層に商品の色のバリエーションやブランドディングを変えた業態「ワークマンプラス」で新しい顧客を取り込んだ。商品・サービス作りでは「企業単独」から「複数企業のシェアードバリュー(利益シェア型)への変化も起こっており、マーケティング活動は「マス広告」から「SNS・インフルエンサー・コンテンツ」に変化している。

 これからは、このような変化に対応し、データ、デジタル、ビジネスの仕掛けを使ってビジネス(経営)改革を行う必要があるが、その際、DXやデジタルビジネスを担う人材には「①データリテラシー、②デジタルリテラシー、特に③ビジネスリテラシーが必要になると筆者は考え、「ビジネス発想力重視のDX人材育成」を行っている。

「ビジネスの4分類とその仕掛け」を知ろう

 では、どのようなビジネスの仕掛けを学ぶ必要があるのかを考えよう。筆者は世界のDX、デジタルビジネスの事例を130社以上調査し、そのビジネスの特徴、強みから4つに分類して説明している。