大企業では今、DXを専門とするDX推進部署を本社に設置するなど社内外向けに幅広くDXプロジェクトを本格化させている。だが、グローバル企業が本社主導で世界的にDXプロジェクトを進めるものの中には、失敗するケースも少なくない。多様な背景を持つメンバーをチームとしてまとめ、グローバルマネジメントで円滑にプロジェクトを進めるには何が必要なのだろうか。今回はSoEプログラム導入におけるグローバルプロジェクトで先進的な取り組みを行う横河電機の事例から、そうした課題を解決するヒントを探る。

SoE:System of Engagementとは、顧客や取引先との結び付きを強化する、あるいは絆を深めることなどを目的として使われるシステムを指す用語

メーカーからソリューション・サービス企業に生まれ変わるためのDXを推進

 プラント生産設備向け制御システムを主力に計測機器等を扱う横河電機。海外売上高比率は約7割に達し、世界の機関投資家も認める日本を代表するグローバル企業の1つだ。同社では2018年からDXに着手。旧来の情報システム本部をデジタル戦略本部に改編し、社内向けに生産性向上を推進する一方、社外の顧客向けにはデジタルビジネスを提供するDXプラットフォームセンターをデジタルソリューション本部内に設置することで、会社全体のDXを推進する体制を構築している。

 現在、同社では2018年から着手したDXのシステム基盤の最適化が一段落し、2021年からは現場のビジネス変革を押し進める段階に移っている。その中でも今、注力しているのが、SoE(システム・オブ・エンゲージメント)プログラムの導入だ。

 SoEとは、顧客や取引先との関係性を強化するプログラムで、顧客体験価値を向上させるCRMのほか、対顧客サービスやマーケティング、営業活動の多くがその範疇に入ってくる。これから多くの企業でもDXの第二フェーズとして着手しなければならないものだが、横河電機ではグローバル企業として、どのようなかたちでSoEプログラムを進めようとしているのだろうか。DX部門を統括している横河電機執行役員(CIO)デジタル戦略本部長兼デジタルソリューション本部DXプラットフォームセンター長の舩生幸宏氏が次のように語る。

「私たちは今、従来のメーカーからワールドクラスのソリューション・サービスカンパニーに生まれ変わるべく新たな変革を推し進めています。これから会社をモノづくりのカルチャーからお客さまの課題を解決するソリューションカルチャーに切り替えていくためにも、顧客指向の組織、プロセス、プラットフォームへの切り換えは待ったなしとなっています。その意味でも、今回のSoEプログラムの導入は必要不可欠なものと考えているのです」

成長から成熟段階に入った企業に不可欠なDXによる全体最適化

 舩生氏はNTTデータを皮切りにソフトバンク、ソニーを経て、2018年に横河電機に入社したITのエキスパート。現在、メーカーをはじめ、多くの企業でDXを担当するCIOに生え抜きではなく、外部人材を登用するケースが増えているが、舩生氏もその1人だ。

「入社した当時、横河電機は古き良きメーカーという印象で、お客さまもBtoBが中心ゆえにDXの波もまだ押し寄せていない状況でした。一方、ソニーのようなBtoCのメーカーではTVやPC等の製品で10年前からデジタル化が進み、いち早くDXの波に洗われた。今はそれが自動車産業に及んでいる状況だと見ています。この流れは近くBtoBの産業機器にもやってくる。そう考え、変革を進めているのです」

 これまで横河電機では他のメーカーと同様、ボトムアップ型でオペレーションがなされてきた。本社は国内を担当し、グローバルの各拠点はそれぞれが独立しつつ緩く連携し、ビジネスを拡大してきた歴史がある。それは成長段階ではうまく機能したが、その半面、マーケティング、販売、サービス等のビジネスプロセスやシステムが拠点ごとに最適化され、成熟段階に入ってからは効率化が進まないという難点があった。

「私たちのビジネスも成熟段階に入ったことで新たに拠点を作り、売り上げを積み上げていくことが難しくなっています。だからこそ、ビジネスプロセスやシステムを全体最適化し、ソリューション・サービスカンパニーに生まれ変わることで活路を見いだそうとしているのです。そのときビジネスを最適化するキーとなるのがSoEプログラムなのです」