最近よく聞くプロジェクトマネジメント(PM)。現在、多くの企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとした新規プロジェクトが推進されているが、このPMがうまく機能していないため、プロジェクトの成功率が低いといわれている。なぜ日本企業ではPMがうまく機能しないのか。そして、どこに問題点があるのか。PM専門のコンサルティングファームであるマネジメントソリューションズ社長の高橋信也氏に話を聞いた。
PMは欧米企業では当たり前、なぜ日本で普及しなかったのか
PMという言葉に接して、初めて聞くという人も少なくないかもしれない。だが、PMはプロジェクトを推進する上で、必要不可欠なものとして欧米では昔から認知されてきたものだ。PMとは文字通り、プロジェクトの計画立案から完了までを円滑に運営できるよう管理・支援する役割のことをいう。しかし、なぜか日本企業ではこれまでPMが浸透してこなかった。その理由とは一体何なのか。PMに詳しいマネジメントソリューションズ社長の高橋信也氏は次のように語る。
「欧米でPMはMBAと同じくらいのスキルとして考えられています。実際、PMプロフェッショナルという資格もあり、大学院でも教えられています。欧米企業では、企業で経験を積んだプロジェクトマネージャーが資格を取得し、1つのキャリアとして転職市場でも非常に重視されてきました。実は日本でもITバブルが起こった2000年代に導入が一時期進んだのですが、うまく普及しませんでした。そもそも日本企業では会社の中で必要なスキルしか学ばない傾向があります。PMという新しい考え方をしっかりと吸収せず、一過性のものとしか捉えてこなかった。日本企業はこの30年間、PMという大事な新しい考え方を吸収するチャンスを逃してきたのです。その結果、今のようにPMが機能せず、多くのプロジェクトが失敗するという状況に陥っているのです」
硬直化した体質こそがPMが失敗する大きな要因だ
もともとPMは、NASAの宇宙開発プロジェクトをベースに生まれたものと言われているが、成功させるには3つの要素があるという。それがQCD、つまり、「クオリティー」「コスト」「デッドライン」だ。その要諦を一口に言えば、限られた予算と期間の中で、優先順位を決めて、やるべきことを確実に実行するということになる。
もっと具体的に言えば、PMとは新しいプロジェクトを組成して、予算を確保して、メンバーを集め、スケジュールを決める。そして、リスクを管理し、コミュニケーションをして利害関係を調整しながら、状況を判断し、うまくマネジメントしていくものなのだ。ある意味、当たり前のことのように見えるが、現実的には”言うは易く行うは難し”なのだ。
「例えば、アベノマスクを1つのプロジェクトとして考えると、PMにおけるQCDの全てを満たそうとしたため、惨憺たる結果に終わっってしまったと言えます。PMの考えに基づくなら、緊急性を問われたアベノマスクの場合、本来最優先すべきは、QCDの中のデッドラインだったのです。PMで重要なのは完璧を目指さないこと。しかし、日本人はどうしても完璧を目指そうとする傾向がある。それはまさに大企業も同じで、そうした硬直化した体質こそが、PMが機能しない大きな要因となっているのです」