「リモートワークにシフトして最初の1カ月くらいはポジティブな面しか見えていなかったが、何か対策を打たなければと考えるようになった」とARISE analyticsの佐々木彰氏は話す。

 コロナ禍で働き方は大きく変わった。テレワークが市民権を得て、従来のオフィスワークと合わせたハイブリッド型の働き方が当たり前になりつつある。しかし、課題も多い。リアルなオフィスでは当たり前だった、対面での話し合いや偶発的な出会いがなくなり、孤立感を抱く人が増え、新しい発想が生まれにくくなっている。

 そこで求められるのが、実態をデータで正確に把握し、デジタルの力も使って人間関係を構築し、改善していくことだ。あるデータサイエンティスト集団の事例からそのポイントを考えてみたい。

毎月実施しているアンケートでリモートワークでの課題を察知

「リモートワークにシフトして最初の1カ月くらいはポジティブな面しか見えていませんでした。しかし、何か対策を打たなければと考えるようになったのです」と語るのは、データ分析企業である株式会社ARISE analyticsの執行役員 Chief Workstyle Officerの佐々木彰氏だ。

 KDDIのグループ企業の同社は、在籍しているデータサイエンティストの数が300人を超える日本最大級のデータサイエンティスト集団として急成長している。彼らが取り組むデータ分析業務自体は一人で行うことが多く、フルにPCを活用する。リモートワークのような働き方とは相性が良いと言えるだろう。

 元々、リモートワークの制度も導入していた同社は、2020年4月の緊急事態宣言の際に全面的にリモートワークを取り入れた。「社内でのコミュニケーションにはSlackやMicrosoft Teamsを活用し、パフォーマンス的には全く問題はありませんでした」と佐々木氏は振り返る。プロジェクトとして進行中で、各人の役割分担が明確になっているものについては、一人で集中した方がはかどるほどだった。

 しかし、一方で課題もあった。急成長する同社では毎月数人単位で中途採用者が入社してくる。緊急事態宣言の時は新卒社員も入ってきたタイミングだった。「入社したばかりで知り合いも少なく、プロジェクトメンバー以外と接触する機会がないため、困ったときに相談する相手がいません。6月くらいになると働きにくさを訴えるメンバーも出てきました」と佐々木氏は語る。

 幸いにも同社はこうした課題を察知できる仕組みを持っていた。それがパルスサーベイである。仕事の満足度、健康状態、人間関係の悩み、貢献実感の4項目について5段階で答える簡単なもので、2018年9月から毎月実施してきた。メールで全社員にアンケートフォームが送られ、自由にコメントを書き込むこともできた。

「創業時から半年に一度、エンゲージメントサーベイを行ってきました。ただ、項目数が80項目と多く、組織ごとの状態を把握して施策を検討するのが目的で、個人に焦点を当てたものではありません。そこでもっと負担が軽くて、個人の状況を知るために2018年9月から毎月パルスサーベイを実施してきました」と佐々木氏は話す。

 このパルスサーベイからは個人の全体傾向が分かるとともに、コメントから理由も知ることができる。同社ではパルスサーベイのデータを活用して、ネガティブな気持ちの変化が見られた場合に、アラートが上がる仕組みも構築していた。そこから新たに加わった社員を中心にコミュニケーション面での課題が浮き彫りになってきたのである。

リモートワークの課題も浮き彫りにしてくれるパルスサーベイ