企業や専門の枠を超えた「共創」で新たな成長を促せ

「日本の小売業界でDXが進まない理由」を激論

JBpress/2020.10.19

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本コンテンツは、2020年9月30日に開催されたJBpress主催「リテール・イノベーション 2020~ポストコロナ時代に求められる小売業の『攻め』と『守り』のデジタルシフト~」での基調講演の内容を採録したものです。

(右)
一般社団法人日本オムニチャネル協会
会長
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
鈴木 康弘 氏

(左)
神奈川大学
経営学部 国際経営学科 准教授
中見 真也 氏

人生100年時代のDX推進に必要な人材とは?

 世を挙げてデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれているにもかかわらず、わが国の企業における取り組みはいまだ進んでいるとは言い難い。その理由には、経営者の意識の問題や、組織が縦割りで部署横断的な連携が進まないこと。さらに従業員一人一人のデジタルに対する意識の持ち方などがあるといわれる。

 今回のセミナーの基調講演には、一般社団法人日本オムニチャネル協会の会長であり、企業のデジタルシフトを支援するベンチャー企業、株式会社デジタルシフトウェーブの代表取締役社長でもある鈴木 康弘氏。そしてマーケティング戦略論に詳しい神奈川大学准教授の中見 真也氏のお2人に、小売業をはじめとする日本企業のDXの課題と目指すべき方向について語っていただいた。

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中見:最初に、鈴木さんご自身の経歴をご紹介いただけますか。

鈴木:私は20代で最初に富士通に入社して、SEとしてシステム開発に携わりました。次の30代では、まだベンチャーだったソフトバンクに転職して営業担当、その後、新規事業企画の執行役員を務めました。40代では会社を起業して、その会社がセブン&アイの子会社になりました。そして50代を迎えたとき、さまざまな経験を活かして、日本のデジタルシフトを前進させるために、現在の会社を立ち上げ、コンサルティングや人材教育を行っています。

中見:さらに現在は一般社団法人日本オムニチャネル協会の代表として、オムニチャネル人材育成という側面から、わが国のDX推進を手掛けているわけですね。

 そこでお聞きしたいのですが、鈴木さんがよく言われる言葉に、「企業で求められる人材には『T型人材」』と『Π(パイ)型人材』の2種類があって、今の時代には後者が必要だ」というのがあります。その理由を説明していただけますか。

鈴木:大きく2つあります。1つは「デジタル化の波が押し寄せている」こと。もう1つは「人生100年時代といわれて、働く期間が非常に長くなってきていること」です。特に近年は後者が大きな課題になっています。これまでは20歳前後で社会に出て、60代の定年まで40年も働けばよかった。こういう時代には、営業一筋とか生涯、技術者といったT型人材が求められたのです。

 しかしこれからは、マルチなスキルを持つΠ型人材が必要となります。そして、そのようなΠ型人材がイノベーションを起こせると考えています。

中見:ではそのΠ型人材を、DXという側面から見ると、どんな人材像になるのでしょう。確かにデジタルは、スマホ1つとっても私たちの社会の在り方を大きく変容させています。しかし、あくまで世の中を変革し、動かしていくのは人だと考えると、人のスキルとデジタルをどう結び付けて考えればよいのでしょうか。

鈴木:デジタルというのは、この先、絶対に必要になってくるものです。ただし、大事なのは「デジタルで何をするのか」ということ。今はみんなデジタル活用というと、効率化にばかり目が向きがちです。

 しかし小売業などは、効率だけではお客さまを引き付けられません。デジタル=効率や合理性と、その対極にある楽しさや喜びなどの感情や感性が両立してこそ、魅力のある店舗や商品作りが可能になるのです。

 この「楽しさや喜び」というのは、データだけでは生み出せません。やはり人の想像力やデザイン思考などが必要になってきます。また、この先のビジョンやビジネスを描くには、上でも触れたマルチなスキルも不可欠です。そうしたデジタルも想像力もマルチスキルも兼ね備えた人材という意味で、Π型人材なのです。