リスク管理には問題解決型PMOを活用

 横河電機の売上比率は国内3割、海外7割と海外の比重が高い。本社は日本にあるものの、海外での営業、マーケティング部門等がお客さまとして接しているのはほとんどが外国人。本社で構築したシステムを海外に適用していては時間もかかり、カスタマイズで失敗する可能性も高い。グローバルに基準を合わせなければ、うまく機能しなくなるうえ、DXの効果も最大化できない。その分、日本人として苦労した点も少なくなかったと梶川氏は明かすが、同時にグローバルマネジメントを進めるために工夫も重ねた。

「スピードとコスト・品質のバランスをとるところは難しかったですね。まずは手を挙げてくれた拠点からスタートしましたが、遅れないようにスケジュールを堅持しつつ、優先順位を決め、ワンチームとして何が必要なのか。何をしなければならないのか。現場と膝を突き合わせて話し合うことを心掛けました。また、コロナ禍の影響もあり出張できないうえ、時差の関係もあって、なかなか顔合わせができないため、社員向けにプロジェクトのポータルサイトをつくりました。そこにトップ対談を掲載したり、プロジェクトのイメージ映像を流したりすることで、グローバルでビジョンを共有化することに努めました」

 それだけではない。同社ではコンサルなどの外部パートナーを活用することでリスク管理も同時に行っている。経験と知識のある問題解決型のPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を採用。最初にプロジェクトの方向性を共に詰めて以降、タスクが大きくなっていくフェーズごとにPMOのメンバーを増員し、リスク対応を行った。舩生氏が語る。

「特にグローバルプログラムをマネジメントするには、日本の進め方も知りつつも、グローバルな進め方といかに整合させていくのかが不可欠となります。言葉のやりとりも基本、英語。本社、各拠点にもさまざまな国のメンバーがいるため、PMOはグローバル対応ができるようダイバーシティやマルチカルチャーの理解がなければならないのです」

「本社が偉い」という認識を変えられるかどうかが鍵となる

 こうしたプロジェクトで海外のメンバーと日本人がうまくコミュニケーションをとっていくためには、どうすればいいのだろうか。舩生氏が続ける。

「日本人にも他の拠点の人たちにもそれぞれ強みと弱みがあります。例えば、日本人はリスクに厳しく、海外の人はスピード重視で楽観的。だからこそ、それぞれの強みをミックスして、どうやって最大限のアウトプットを出していくのかに留意する必要がある。特にプロジェクトを進める際、日本ではビジョンや全体観を話さずに指示だけをしがちですが、それでは日本人以外の人たちはモチベーションが上がりません。日本人以外の人たちはビジョンや方向性を理解しさえすれば、それぞれがプロフェッショナルに実務を進めてくれます。こうした日本との違いを理解し、押しと引きの調整を図っていくことがグローバルマネジメントでは大切なのです」

 グローバルマネジメントでDXの世界的なプログラム構築を推し進めている横河電機。最後にグローバルプロジェクトを成功させる鍵となるものとは何か。舩生氏に聞いた。

「グローバルプロジェクトを遂行するには相応の予算が必要になるため、どうしても日本本社の主導になってしまいます。しかし、そのままでは失敗する可能性も高くなります。そのため、私たちの場合は、まずDXを担うIT部門が先行してグローバルな体制を構築し、”グローバル化とは何か”を体感するためのシミュレーションを行いました。そして、そこで得た知見や勘所をもとにグローバルの各拠点のメンバーを巻き込んで、グローバルワンチームでプロジェクトに着手していったのです。実際のプロジェクト推進で忘れてほしくないのは、日本本社が必ずしも偉いのではないということです。全拠点がグループとして一体となって同じ目線、同じ立ち位置でフラットに進めていくことが重要なのです。本社がそうした認識を持つことができるのかどうか。それがプロジェクトの成否を分ける鍵になると思っています」

【取材を終えて】日本企業の真のグローバル化に向けたチャレンジ 

 お話を伺って、横河電機のチャレンジは、日本発のグローバル企業に共通する課題だと感じました。実際、日本の本社が主導したグローバルプロジェクトがうまく進められず、当初の目的を達成できなかったといった話はよく耳にします。グローバルプロジェクトを成功させるためには、海外のメンバーを積極的に登用する組織的な立て付けに加えて、異なる文化や価値観、仕事の進め方への理解や、それらを受け入れ、積極的に活用する姿勢が不可欠であることを、改めて教えていただいた貴重な機会となりました。

<マネジメントソリューションズ 上田康弘>