絶えず変化する顧客の行動やニーズを的確に捉えるためには、データの利活用が欠かせない。しかし、顧客理解を深める「生きたデータ」を得るのは容易ではない。そこで、りそなグループでは500万ダウンロードを誇るりそなグループアプリを起点に、顧客に新たな価値を提供するべく、データサイエンスの取り組みを進めている。その戦略およびデータの蓄積・分析・活用法について、りそなホールディングスデータサイエンス部長の那須知也氏に聞く。
※本コンテンツは、2022年8月24日に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回金融DXフォーラム デジタルテクノロジーの活用による金融イノベーションの実現」の特別講演1「新たな顧客価値をつくるりそなグループのデータ利活用について」の内容を採録したものです。
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https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73120
デジタルバンキング戦略の中核を担う「りそなグループアプリ」
りそなグループは、個人顧客数約1600万名、法人顧客約50万社、有人拠点800カ所以上を維持する、日本最大の信託併営リテールバンキンググループである。「お客さまの喜びがりそなの喜び」を基本姿勢に、中期経営計画では既存領域の差別化を図る「深掘」と脱・銀行を向けた「挑戦」、そして基盤の再構築に取り組む。「その実現において、デジタル&データは最も重要なドライバーと位置付けられています」と語るのは、株式会社りそなホールディングスデータサイエンス部長の那須知也氏だ。
りそなのデジタルバンキング戦略は、フィジカルチャネル(対面)とデジタルチャネル(非対面)を有機的に結合しながら、全体の約90%を占めるデジタルチャネルの顧客に対して積極的にアプローチするというものだ。「デジタルチャネルでは、直接お客さまと接することはできませんが、データの蓄積からデータの表情、ひいてはお客さまの表情を読み取ることができます。データ分析によって顧客理解を深め、商品開発に活かしていきます」と那須氏は狙いを語る。
デジタルチャネルの中核を担うのは、バンキングアプリだ。2018年にローンチした「りそなグループアプリ(以下、アプリ)」は、サービス開始から4年で500万ダウンロードを超え、インターネットバンキングやATMを上回る、りそなグループ最大のチャネルとして成長を遂げた。20〜30代をボリュームソーンとしながら50~60代の顧客接点も着実に確保しており、月間の継続利用率は約75%、平均アクセス回数は11回以上。個人の顧客が銀行の店舗に行く回数に照らせば、アプリが顧客接点としていかに有効であるかが分かる。
積立定期預金、外貨預金の口座開設では、2021年度で全体の80%を超える顧客がアプリで口座を開設している。さらにアプリには多面取引を強化する効果もあるという。アプリ利用者ではその他の顧客と比較してデビットカードの利用額が約3倍、他行宛の振込が約1.6倍、外貨・外為収益が約1.4倍など、トータルで約2倍程度の収益に寄与している。500万ダウンロードという大きな数字を背景に、継続的にうすくひろく収益が上がる仕組みを構築しているのだ。
こうしたアプリの収益性を支えるのは「デジタルを通じて新たな価値を提供する」という開発思想と、アジャイル開発による継続的な改善活動だ。4年間で150回、1000項目にも及ぶアップデートにより、アプリとしての高評価を維持していると那須氏は明かす。