アプリに蓄積されるデータを活用して進める、りそなのデジタルマーケティング
アプリ活用の結果、ログを含めて従来とは桁違いのデータが蓄積されるようになり、データにマーケティングをかけ合わせるデジタルマーケティングが可能になった。その代表的な活用事例が、アプリの「アドバイス機能」だ。
アドバイス機能とは文字通り、アプリを通じて顧客一人一人に合わせたアドバイスを送るというものだ。「興味喚起から取引まで一直線」というコンセプトのもと、顧客がストレスなくアプリ内で全ての取引を完結できるようにつくり込まれている。また、相当数のシナリオを準備して、顧客一人一人に「出し分け」を行っている。例えば、アプリをセットアップした翌日、3日後、また誕生月、年初などのタイミングで、パーソナライズしたストーリーで顧客に寄り添うアドバイスを配信している。
こうしたデジタルマーケティングで最もこだわっている点として、那須氏は「PDCAの徹底」を挙げる。原則として全件のシナリオを丁寧に検証し、膨大な配信数を武器にABテストや配信・未配信テストで知見をためているのだ。「お客さまの生きたデータであるために、当初の予想とかなり違う結果になることもままありますが、これを反映することでレベルアップにつながると考えています」と那須氏は期待する。サービス開始以来、シナリオは500件に迫り配信数も順調に伸びているが、配信数以外のKPIも設定しながら、顧客に寄り添う配信に磨きをかけているところだ。
同社のデジタルマーケティングの思想は「アクティブユーザー数、スムーズな取引動線、最適化されたコミュニケーションの3つが揃って初めて収益化につながる」というものだ。「この3つは足し算ではなくかけ算です。どれか1つでもゼロになれば全てゼロになりますが、その一方で、どこかが大きな数字を確保すれば、乗数的に効果が上がるのです」と那須氏は解説する。
ただし、りそなグループは単なるネットバンクを目指しているわけではない。あくまでも顧客の望むチャネル、体験、取引を提供するために、800カ所以上の有人拠点を活かしながら、有人・無人、リアル・ネットを有機的に結合することで「真のオムニチャネルの実現」を目指しているのだ。
データサイエンスを起点として、ビジネスチャンスを創出するための組織づくり
りそなグループでは、データ分析専門組織として2019年4月にデータサイエンス室を設置。その2年後にデータサイエンス部に再編し、データサイエンスの取り組みを進めてきた。同部ではビジネス、データ、分析力を融合し、データを起点とする新たなビジネスチャンスの創出に挑む。
「当グループのデータサイエンス部は、一般的な企業よりもビジネス寄りの視点が強い」という那須氏。「データサイエンスは『データの分析力』と捉えられがちですが、私たちはビジネスを中心とした課題・仮説の設定からスタートして、分析のサイクルを回しながらマネタイズを図っていきます」と独自のアプローチを語る。
データサイエンス部の中には、データサイエンスとデータマーケティングの2つの組織がある。互いの仕事をフィードバックし合い、顧客と近い距離で高速でPDCAを回すうえで、データサイエンティストの分析を最大限に活用している。
組織組成においては、「内製化」と「自走化」をキーワードに取り組んできた。ビジネスの創出には、自社のビジネスに精通したデータサイエンティストの存在が不可欠だからだ。現在は5人のデータサイエンティストを社内認定しており、今後も社内人材、中途採用の社外人材、パートナー企業をバランスよく配置して組織の基盤を強めていく考えだ。
また、データドリブン文化の醸成にも取り組んでいる。「山を高くしようとすれば必然的に裾野は広くなる」という発想にもとづき「全社でデータサイエンス」という目標を掲げ、専門組織の高度化に加えて、ユーザー層に向けた社内研修の充実やBIツールの活用を進めている。
データの蓄積・分析から予測モデルへ、さらなるビジネスへの貢献を目指す
同社のデータサイエンスは、りそなグループアプリの浸透に合わせて進化してきた。アプリによってデータの質と量が大幅に向上し、さらにこれを「見える化」するダッシュボードを導入したことで、顧客理解とマーケティングに多くのリソースを振り向けることができるようになったのだ。
具体的な成果事例として、那須氏はまず「顧客ニーズ予測モデルの構築」を挙げる。残高や属性といった説明変数に、アプリから取得した行動系データを加えた結果、大幅に精度が改善されたという。さらに「顧客セグメンテーションの高度化」では、アプリから得られる口座の利用データを動的に分析して、クラスタリング、グループ分けを行う。こうした新たなセグメンテーションは、前述のアプリのアドバイス機能による細かな出し分けに活かされているという。
さらに高度な予測への挑戦も始めている。口座の使い方、アプリの使い方から「顧客のライフイベントの発生を事前に予測する」というものだ。「これは、あくまで予測モデルであり、実際のマーケティングではダイレクトな表現を避けるなど慎重に運用します。しかし、既存のモデルと組み合わせることで、カードローンなど商品のヒット率が上がるといった事例がすでに出始めています」と那須氏は補足する。
「効果の高いモデルをつくると、横展開が図りやすい」という那須氏。今後は分析結果を店舗担当者へ還元し、営業支援、営業活動の高度化にも取り組んでいく予定だ。
「経験とデータをミックスすることが大事です。従来のいわゆるKKD=「勘と経験と度胸」が、今後はデータにもとづくものになれば、さらに精度の高い営業活動ができるようになります。現場のすみずみに至るまで、データにもとづいて仕事を進めること。また銀行の重要な仕事である対面ビジネス、対面営業に資する分析を目指しています」
りそなグループは、デジタルバンキング戦略を支える仕組みとして「金融デジタルプラットフォーム」構築を進めている。顧客視点のサービス設計を中心とし、これからも新たな価値を提供していくと、那須氏は意気込みを語った。