筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタルオフィサーという役職で、デジタル戦略の立案、執行を担当している。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問としてDXの推進やDX人材育成のサポートをしたりしている。
これらの仕事の関係で、多くの経営者、管理者、DX担当者からよく聞かれることがある。それは「社内の人材をリスキリング(新しいスキルを身に付けてもらうこと)したいが、何をどうやって進めればよいのか分からない」というものだ。
この答えは「データ、デジタルを使った新しいビジネスを発想したり、プロジェクト計画を作ったり、社内調整したりする、『企画・推進型の仕事ができる力』を身に付けてもらうための教育プログラムを作って運営する」である。
世の中は変わり、これまでの知識やスキルでは新しいDXビジネスに対応できなくなっている。だから、人材の能力をアップデートする必要がある。これがリスキリングが必要になる背景である。学ぶべき「データ、デジタル、ビジネス」のうち、特に重要である「ビジネスの仕掛け」については、前回の連載(DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」)で紹介した。この連載ではDX企画・推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」の養成を目的としている。
DXやデジタルビジネスでは、新しいことを学び、それを生かしてイノベーティブな仕事を行う必要があり、これまでの知識やスキルでは対応できない場合が多い。このため、「リスキリング」を行う必要があり、この連載ではそれが学べる。
リスキリングの成功要素とは何か
筆者は年間多くの研修を行っていることは既に述べたが、その中に「マインドセット研修」と呼ぶものがある。これはワークショップ型の1日間(または半日×2日)のコースで、受講者がスマホでネット上の情報をヒントにDXを使って自社の課題を解決する企画を考え、発表してもらうものだ。
この研修は2019年から始め、2022年の現在で4年目になる。もともと筆者が勤務する住友生命グループのシステムエンジニア向けに始めたものであるが、今では社外の企業や大学、地方自治体、官公庁向けなどにも行い、累計で約600人が受講している。
研修は1コマ30分~1時間半の4つのワークショプから構成されており、1日通しで行うとかなり頭が疲れるハードなもので、4~6人1グループでグループワークを行う。
この研修の特徴は「最初から教えないこと」である。「①課題に対し、②スマホで検索し調べ、③グループで議論し、④発表し、⑤講師の評価を受け、良いところ、弱いところを指摘され、⑥講義を受ける」という6ステップを1日に4回、課題のレベルを易から難にレベルアップして行う。
「マインドセット研修」と命名しているのは、人が持つ仕事をする上での考え方、判断基準、常識を意味するマインドセットを「DX時代に合わせて見直す」ことを目的にしているためで、「マインドセットを刷新するきっかけ」となる研修という意味である。
この研修の主講師を担当する筆者が得たことは多いが、その中でも最も重要なことは、「新しいことを学ぶこと=リスキリング」には「学びの仕掛け」が必要であるということだ。「学びの仕掛け」とは筆者が使っている言葉で、「新しいことを効率的に学んでもらうための要素」のことである。
研修では「学びの仕掛け」を使い、学習効果を高めるようにしている。「最初から教えない」もその一つである。人は他人が話していることを聞いて理解するよりも、自分で調べて考えたことの方が理解や知識の定着が早いといわれる。これが、学習効果が高いといわれるアクティブラーニングの根拠になる考え方である。
このため研修はアクティブラーニングの要素を持たせて、「①課題に対し、②スマホで検索し調べ、③グループで議論し、④発表し、⑤講師の評価を受け、良いところ、弱いところを指摘され、⑥講義を受ける」の流れにしている。
では、次の「学びの仕掛け」に移ろう。重要なものに「理解したつもりの排除」がある。興味深いことに、研修では、「DXをそれなりに知っている」と考えている受講者よりも、「DXをほとんど知らない」と考えている受講者の方が高い評価を得ることが多い。一般にDXをよく知っている人の方が良い評価になりそうであるが、この研修ではそうならないことの方が多い。