筆者は現在、住友生命保険に勤務し、デジタル共創オフィサーという役職で、デジタル戦略の立案、執行を担当しており、パートナー企業との新規ビジネス創出、デジタルとデータを活用した顧客価値向上策などの活動をしている。また、社内外のDX人材育成活動として年間40回以上の講演や研修を実施したり、社外企業数社の顧問として顧客価値創出、DXの推進、DX人材育成のサポートをしたりしている。

 これらの仕事の関係で、多くの経営者、管理者、DX担当者からよく聞かれることがある。それは「DXプロジェクトを成功させるためには何が重要か」というものだ。「DXで最も学ぶべきことは何か」という場合もある。

 私はそうした問いに「顧客価値を強く意識すること、常に考え続けること」と答えている。DX担当になる前の筆者は、恥ずかしながら顧客価値を常に考え続けることはなかった。

 しかし、今では顧客価値が最も重要だと思っている。DXプロジェクトを5年以上経験した現在、DXとは「価値を創造し経営改革すること。その手段としてビジネスの仕掛け、データ、デジタルを使うこと」と考えている。DXというと、データやデジタル技術といったテクニカルな面だけが重要だと思いがちだが、そうではない。それらは手段に過ぎない。

 重要なのは、まず「顧客価値」をとことん考えることである。それを具現化する手段としてビジネスの仕掛けを考え、それを実現するデータやデジタル技術の使い方を考える。これで有用なビジネスやシステムが実装されるのだ。

 そのためにはDXやデジタルビジネスに必要なビジネス発想力や企画・推進のための仕事ができる力を身に付ける必要がある。ビジネス発想力を高めるには、顧客価値を知ること、その手段となる「ビジネスの仕掛け、データ、デジタル」の知識を学ぶ必要がある。

連載「DX企画・推進人材のための『ビジネス発想力養成講座』」と「DX企画・推進人材のための『リスキリング実践講座』」の内容が書籍になりました。

 このうち、「ビジネスの仕掛け」については、前々回の連載(DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」)で紹介した。また、DX企画、推進人材が身に付けるべき「企画・推進の仕事ができる力」は、前回の「DX企画・推進人材のためのリスキリング実践講座」で紹介した。

 今回の連載では、DXやデジタルビジネスに必要な「顧客価値を高める」手段について考えたい。その手段が、ビジネスの仕掛けであり、データ、デジタルである。顧客価値を高める方法にはどのようなものがあり、どう実現するのか。この連載ではそれが学べる。

ECサイトの顧客価値について考える

 多くの人が利用しているのでイメージしやすい「顧客価値を高める」事例としてECサイトを考えたい。

 ECサイトでの購買体験はリアル店舗とかなり異なる。それ故に、何が顧客価値を高める要素になるのかを理解しやすいと考え、筆者はこの事例を研修などでよく使う。また、ECサイトはAmazonという顧客価値を重視してきた世界的ECサイトという良いお手本もあるから事例には事欠かないという意味もある。

 では、事例を考えていこう。DX企画・推進者の立場で考えながら読み進めてほしい。