DXの実現には、人材のトランスフォーメーションという課題を避けては通れない。しかし、デジタルリテラシーを高める社員研修を行うだけでは、大きな成果は得られない。社員の根本的な価値観や考え方、すなわちマインドセットの変革が必要なのだ。本稿では、一橋大学 経営管理研究科 教授の神岡太郎氏に、DX推進の上で最も大きな障壁になり得る社員のマインドセット変革を、どう進めていくべきか聞いた。

※本コンテンツは、2022年3月22日に開催されたJBpress主催「第12回 DXフォーラム」Day1の基調講演Ⅰ「DXと人材のトランスフォーメーション~マインドセットを変える~」の内容を採録したものです。

あらゆる企業がDXによる絶え間ない変革を求められている

 デジタルテクノロジーの爆発的な進化が助けとなって実現するDX。これによって新しい顧客価値の提供を実現した企業は数多く存在する。DXのきっかけになったのは新興のデジタル・ネイティブ企業の登場による。

 ライドシェアや宅配のUber(ウーバー・テクノロジーズ)や、民泊事業を展開するAirbnb(エアビーアンドビー)に代表されるように、一見、デジタルとはかけ離れた業種においても、新しい企業が従来型企業の市場や顧客を一気に奪っていくということがしばしば起こっている。このような現象は、Uberをもじって「Uberize」と呼ばれるほどだ。

 どんな産業にもこうした破壊的イノベーションが起こる可能性は十分にあり、現在は安定した市場を持つ企業だとしても、今後はデジタルを使いこなして成長を続ける企業へとトランスフォーメーション(変革)していかなければならない。

 マーケットが常にさまざまな環境変化にさらされている昨今、DXを繰り返して成長を続けてきたNetflix(ネットフリックス)や、GAFAのようなデジタルネイティブな企業であっても、決して安泰というわけではない。

 コロナ禍で巣ごもり需要の恩恵を受けたAmazon(アマゾン)でさえ、そのトレンドが落ち着き始め、規制の高まりや物流コストの増大に伴って、やがて株価は下降線をたどるようになる。Netflixも一見、順調に成長しているように思えるが、会員数や売上高の伸びが投資家の期待を超えなかった場合、マーケットからは厳しい評価が下され、株価の下落は避けられない。同じことを繰り返しているだけではトップ企業においても地位が安泰というわけではないのだ。