東京大学理学部情報科学科卒、米イリノイ大学大学院アーバナシャンペーン校コンピュータサイエンス学科AI専攻修士。電通に入社し、インテル、マイクロソフト、アップルコンピュータ(当時)の日本進出と事業拡大戦略を担当。電通退社後はシリコンバレーで米Harmonic Communicationsを創業し、アジアパシフィック地域統括担当副社長、日本支社長。その後、PwCコンサルティング 戦略部門ディレクターに就任後、マーケティングエクセレンスグループを創設し代表。2017年11月に一般社団法人CDO Club Japan代表理事就任。

 これまで一般的に3つの段階があるといわれるDX(デジタルトランスフォーメーション)に、政府の脱炭素化への取り組みにより「社会課題の解決」という第4段階が加わった。その新しいDXを実現するためには何が必要になり、どのように進めればよいのか。一般社団法人CDO Club Japanの代表理事である加茂純氏に聞いた。

日本企業のDXが遅れている理由は何でしょう?

――日本企業のDXの現状をどう捉えていらっしゃいますか? 海外と比べたときの評価もお願いします。

 PwCなどの調査によると、日本の企業の約6割がDXを視野に入れたデジタル化を進めています。一方で、CDOを設置している企業は約1割です。約1割まで増えてきたと言うべきでしょう。ただし、欧米では約6割の企業がCDOを設置していますので、ここが大きな違いとなっています。

 日本の企業にも、おそらくデジタル化を推進するための組織はあると思います。しかし、CDOがいない。つまり、リーダー不在の中で、それぞれの組織が個別に推進している状況だと思います。そこでは、DXの第1段階である「オペレーション変革」にどう取り組むかという時点で止まっているのではないでしょうか。

 2013年には欧米で「インダストリー4.0」が提唱され、産業の変革に取り組んでいます。その後、現在までおそらく2、3回はサイクルを回し、トライ&エラーを繰り返しています。日本はまだ1回目のサイクルが始まったばかりですが、そうした海外の経験や失敗の情報を入手できることは日本企業のメリットといえます。

 こうした状況の中で、グリーン社会という大きな社会課題が提起され、世界全体で対応しようという動きになっています。日本も強制的に取り組むことになっていますが、日本はもともと黒船を筆頭に、外的要因によって大きく変化してきました。その意味でこれをチャンスと捉え、企業が一致団結して変革に取り組むことで、さらに先へと進んでいける。この10年が勝負だと考えています。

 2020年、菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。この宣言に基づいたロードマップでは、2030年に温室効果ガスを2013年度から46%の削減を目指し、さらに50%削減に向け挑戦するとしています。

 これを実現するにはエネルギー構造を変える必要がありますし、企業やサプライチェーンにも変革が求められます。非常に困難な目標ではありますが、逆にこれを実現できたら日本の組織変革も成功したという意味になりますので、この10年が勝負というわけです。

 例えば、製造業では組織が今も縦割りになっています。それを横串で連携できるようにしていく必要があります。また、新規事業への取り組みも重要です。そのためにはさまざまなベンチャーとの連携や、それを推進する新たな部門も必要になるでしょう。組織のアジャイル化も重要ですし、人事制度も変えていく必要もあります。

 今までのようにモノ作りで商品を売るという目標をグリーン社会という社会課題の解決にシフトするわけですから、組織全体を変えなければならないわけです。これは製造業だけでなく、全ての産業に言えることです。