※本コンテンツは、2021年11月2日に開催されたCDO Club Japan主催の講演「イントレプレナー・DX人材の育て方・活かし方」の内容を採録したものです。

 大企業でのイノベーション活動が一般化し、コロナ禍を受けて加速している。一方で、巨大な組織ならではの障害などを背景に、収益化まで導いている新規事業はそう多くはない。大企業の最高デジタル責任者(CDO)コミュニティであるCDO Club Japanの理事&事務総長 水上晃氏と、企業のイノベーション支援を手掛けるサムライインキュベートのパートナー 成瀬功一氏は、DXや新規事業を成果に結び付けるために必要なのは、「組織を考慮した人づくり」と「新しい文化の構築」であると話す。

DX人材は「育成」と「チーム」で生み出す

「DXで価値を創造するDX人材とは?」をテーマにCDO Club Japanの水上氏が講演した第1部セッション。冒頭で「社会が変革した中で、多くの企業が模索しながらも歩みを進めている状況」とポジティブな印象を受けているとした一方で、直面している共通課題が「圧倒的なDX人材の不足」と水上氏は指摘した。

 特に不足しているのが、事業全体を統括できるプロデューサー(プログラムマネージャー)やビジネスデザイナー、全体設計を担うアーキテクトだ。これらを担えるのは、事業開発を主導できるビジネススキルと、デジタル・データの知見をもってカタチにできるデジタルスキルのハイブリッドであり、まさに企業が求めるDX人材である。しかし、そんな人材を日本で見つけるのは現実的には難しい。

「そもそもDX人材の不足は一過性のものではなく、ベースとなる知識と実務レベルの経験値を与える機会が足りなかった日本全体の中長期的な課題です。今後もDX人材の報酬の高額化と雇用の流動化が進むでしょう。企業が事業を継続していくには、人材育成と中途採用のハイブリッドがポイントになると考えられます。採用だけでなく、長期的な育成にも力を入れなければなりません」

 水上氏は、長期的かつ持続的に育成すべき、3階層からなるスキルを挙げる。

「ベースとなる『基礎』、実務レベルの『経験値』、企業や業界特有の『自社固有』の3階層からなるスキルを意識して人材育成をしていく必要があります。例えば、魚の養殖で新たな事業を創造しようとする場合、デジタルの知識や経験を持っていたとしても、自社固有のスキルである魚の生育の考え方を知らなければ、的を射た発想に至らないでしょう」

 中途採用に当たっては、そもそも希少だった優秀なDX人材は、以前に増して希少となり、市中で取り合いの様相を見せている。現実的な報酬で採用するのが難しくなっているだけでなく、報酬以外のインセンティブがなければ、長期で雇用するのも困難だ。

「エースパイロットの所属が維持できないなら、エースパイロットがいる間に、どれだけ次を担う人材のスキルを高められるか、スキルを持った人材の数を増やせるかが喫緊のポイント」と水上氏は言う。

 一方で、水上氏は、育成や採用とは別の考え方にも触れた。DXならびにデジタルビジネスにおいては多岐にわたるケイパビリティが必要になる。そのため一人の人材が全てのスキルを保有することを目指すのではなく、多様なスキルを持つメンバーをコラボレーションさせることが重要であるという。ビジネスとデジタルの両方に強い「両利き」の人材を求めるのではなく、スクラムで戦う考え方だ。

「特殊かつ多様なスキルを持つ人材は、お互いの専門性に対する理解がある一方で、連携には不向きなメンバーがいることも少なくありません。チームをうまく機能させるには、専門職を連携させることに特化した『カタリスト』のような能力を持つ人材を配置するのがポイントです。一つのチームで完結できるパーティ編成はイノベーションとも相性がよいと感じます」

 多様化する個性とスキルを有機的にコラボレーションさせていく。水上氏は「全体を考慮した人づくりを考えていくのが重要で、そうしないと価値創造がしづらい状況になっているのも事実。これまでのやり方を変え、社内外を問わず知恵を出し合い、どう前進するのか。それが日本再生の鍵になります」と締めくくった。