2021年9月、いよいよ日本にもデジタル庁が発足した。
これまでも行政手続きは煩雑を極め、その非効率さを嘆く声は多かった日本。情報漏えいの防止などの安全対策の精度を上げていかなければならないが、国の動きによって多くの国民はデジタル技術の恩恵を受けることになるわけだ。
今後は民間の動きもますます加速していくが、この連載では、DX推進の要となる『人材』について考えていく。特に、ものづくりDX人材にフォーカスを当て、具備すべきスキル要件や育成の考え方を解説したい。
採用担当者の恐怖『デジタル人材を採用せよ!』
いまや、「DX」「デジタル人材」という言葉を目にしない日はないだろう。こんなエピソードを、あるメーカーの人事担当者から聞いた。
2年前にデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた中期経営計画が発表され、社長の号令でデジタル人材探しが始まった。人事は右往左往し、経営企画部門や現場を巻き込み、社内から優秀な人材を発掘しようと試みたが、自社内には適任者がいなかったのである。
そこで、鳴り物入りで某大手情報システム部門出身者を採用した。だが、半年たっても成果が出せず、社内の関連部署から不満の声が上がってきた。採用された人材は転職したいと言い出し、もはやノイローゼ気味である。その上、経営陣からは、人事採用担当への批判も出始めた。この話をしてくれた人は、「デジタル人材」の言葉を耳にすると動悸が激しくなるというのだ。
この問題に関して、採用担当者や採用された彼が悪いのではないということは、指摘しておきたい。社内から疎ましく思われた要因は、別のところにある。
では、この事態を招いた盲点はなんだったのか。そもそもデジタル人材とは、どんな人であるべきで、どんな役割を担う人か。そもそも自社の経営戦略の仲でDXはどう描かれるべきか。この難問について経営陣は真剣に取り組んでいたのだろうか。
また、他の関係部門の社員は、他社の動きやテクノロジーの進展に目を配っていただろうか。また、彼に全てを投げてしまっていなかっただろうか。採用された彼はテクノロジーに詳しくても、現場のことを全く知らず、その会社のやり方にも精通していなかった。DXによって自社の変革が求められ、自社の強みを生かした「ものづくりDX」という未来図を描かなければならない。こうした問題に真っ向から取り組むには、半年前に入社した社員では荷が重かったのである。
世の中の動きやテクノロジーへの理解、それを熟知した上で自社の変革を行っていくのが、デジタル人材である。だが、実際には、トップも経営陣もその解を持っていなかった。