(英エコノミスト誌 2021年5月29日号)

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(2020年8月16日撮影、写真:AP/アフロ)

アレクサンドル・ルカシェンコと友達でいたいのはウラジーミル・プーチンだけだ。

 ベラルーシの反体制派は、ベラルーシで逮捕されることは想定している。だが、5月23日までは、西側にいれば安全だと思っていた。

 この日、ベラルーシのジャーナリストで活動家のロマン・プロタセビッチ氏(26歳)は、欧州連合(EU)加盟国のギリシャから別のEU加盟国のリトアニアに向かうライアンエアー機に乗っていた。

 そして恐ろしい目に遭った。世界中が驚愕したことに、ベラルーシの独裁政権がこの旅客機をハイジャックしたのだ。

国家によるハイジャック

 旅客機はベラルーシ領空を通過し、プロタセビッチ氏が亡命生活を送っていたリトアニアに入ろうとしているところだった。

 すると突如、機体に爆弾が仕掛けられているとの連絡がパイロットに入った。

「ミグ29」戦闘機がスクランブル発進して旅客機の行く手を阻み、ベラルーシの首都ミンスクの空港に誘導した。もっと近い空港がほかにあったにもかかわらず、だ。

 着陸すると、プロタセビッチ氏は同行していたロシア人のガールフレンド、ソフィア・サペガ氏とともに身柄を拘束された。

 爆弾は見つからなかった。警告は明らかに策略だった。

 ベラルーシの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、昨年の選挙を盗んだことをめぐって大規模な抗議行動に見舞われ、いら立ちを募らせていた。

 プロタセビッチ氏は仲間とともに、そうした抗議行動を取材し、活気づけ、部分的ながら組織化したインターネットチャネル「ネクスタ(ベラルーシ語で『誰か』の意)」を立ち上げていた。

 同氏は今、15年の懲役刑を科される恐れがある。「自供」とされる動画のなかで、当局から適正な扱いを受けていると述べている。しかしその額にはあざがあり、首の一部には化粧が施されているようにも見える。

 またサペガ氏は「集団暴動」を扇動した容疑で告発されており、同じように痛ましい動画が流された。