(英エコノミスト誌 2021年5月22日号)

世界を驚かせたジョージ・フロイドさん殺害から1年が経過した

1年前のジョージ・フロイドさんの殺害は、人種間の格差を終結させる運動を引き起こした。その目的は、どうすれば成し遂げられるのか。

 ちょうど1年前、ジョージ・フロイドさんが警官のデレク・ショービン被告に殺害された時、人々が抱いた不公平感には絶望感が混じっていた。

 多くの米国人は、なぜ自分の国でこんなことがまだ起きているのかと自問した。多くの外国人は、人種にまつわる米国の物語がなぜ一向に変わらないのかと首をかしげた。

 ただし、今回だけは違った。フロイドさんの殺害事件により、公民権をめぐる米国史上最大の抗議行動に火が付いた。

 異例なことに、殺人罪に問われたショービン被告には有罪の評決が下された。そして米国内外の機関が自らを異なる角度から見つめ直した。

 何かを変える必要があった。しかし、何を変えればよいのだろうか。

人種間の不平等の根本原因

 バイデン政権と民主党は、人種間格差の縮小を政府の指針となる原則に位置づけた。簡単なことに聞こえるが、実際はそうではない。

 公民権運動が盛り上がった時代以降、アフリカ系米国人は法的・政治的な権利を拡大してきたにもかかわらず、相対的貧困や黒人と白人の隔離を示す指標には半世紀前からほとんど動きが見られない。

 長きにわたる不公正と格闘するなら、その原因を明確に捉えておく必要がある。

 ほとんどの場合、人種間の格差は3つのものがぶつかる時に生じる。

 経済の長期トレンド、奴隷制と人種隔離政策の余震、そして今日の偏見と人種差別の3つだ。

 アフリカ系米国人に悪い結果をもたらす最大の原因は大抵、最初の2つだが、最も注目を集めるのは3つ目の要素――今日の人種差別――だ。

 これでは順序が逆だ。新型コロナウイルス感染症によるアフリカ系米国人の死亡率は、白人やアジア系米国人よりも高い。

 その原因はまだ明らかではないが、医師や看護師、保険会社などが人種差別主義者だという理由ではないだろう。

 恐らくこれは、過去の人種差別や今日の貧困を含む様々な理由のために、アフリカ系米国人は何らかの基礎疾患を抱え、安全でない戸外で働かざるを得ず、医療保険に加入していない傾向があるからだろう。

 人種差別はいまだに米国の災いの元になっているとはいえ、公民権運動時代はもとより、30年前と比較しても減っている。