(英エコノミスト誌 2021年5月15日号)

イスラエル軍による空爆で火柱の上がったガザ地区(5月17日、写真:ロイター/アフロ)

 エルサレムで先月、金属製のバリケードをめぐる口論として始まった対立が、「聖地」の超現実的な論理を背景に、イスラエルとパレスチナ自治区ガザを開戦の瀬戸際に追いやっている。

 ガザのパレスチナ人戦闘員は5月10日以降、1600発を超えるロケット弾をイスラエルに向けて発射しており、イスラエルは数百回の空爆でこれに対抗している。

 2014年以降のどの戦闘と比べても圧倒的に激しい戦いだ。

 イスラエルの爆弾により、ガザでは高層ビルが3棟破壊された。報道によれば、ガザを実効支配するイスラム原理主義の武装集団ハマスの事務所を狙った作戦だった。

 一方、ハマスとその仲間はテルアビブとイスラエル南部に大量のロケット弾を発射しており、パレスチナ人を中心に多数の死者が出ている。

 米国、欧州連合(EU)、アラブ諸国などから停戦を求める声が相次いでいるものの、イスラエルもハマスもさらに攻撃を加える構えだ。

 イスラエルはガザとの境界に部隊を送り、住民には防空壕に入っているよう命じた。

 アラブ人とユダヤ人の衝突はイスラエル全土に広がっており、中部のロド市では、アラブ系イスラエル人による暴動やユダヤ人の住民1人によるアラブ人男性1人の殺害を受けて非常事態が宣言された。

 国連のトール・ベネスランド中東和平特別調整官は、この戦いが「全面戦争に向かってエスカレートしている」と警鐘を鳴らした。

発端は些細な衝突

 例によって、この衝突はわずかな土地をめぐる対立で始まり、エルサレムという都市の宗教的なパワーによって増幅された。

 今回問題になったのは、壁に囲まれた旧市街に通じる古い入り口の一つ、「ダマスカス門」の前にある、少しくぼんだスペースだった(地図参照)。

 今年4月、イスラム教徒の聖なる月「ラマダン(断食月)」が始まる時に、イスラエルの警察署長が「保安上の理由」から、パレスチナ人たちが集まるこの場所にフェンスを設けて入れないようにすることを決めた。

 これが衝突の発端だった。

 フェンスの設置はその後撤回されたが、パレスチナ人の若者とイスラエルの警察は路上で小競り合いを続けた。

 イスラム教で3番目の聖地とされるアルアクサ・モスクの境内に警察が入り込み、催涙弾やゴム弾を発射すると対立は頂点に達した。2度の大きな衝突で数百人が負傷した。