MHC領域は、「ヒト白血球抗原」を決める遺伝子領域で、ある種の病気への耐性を左右します。病気への耐性が高いSNPが、適応進化の結果として広まっていくことは、納得できます。

 SERHL2遺伝子は、「セリン加水分解酵素」のようなタンパク質分子を作りますが、その役割はまだよく分かっていません。

 一見不可解なのは、アセトアルデヒド脱水素酵素とアルコール脱水素酵素の適応進化です。この研究結果は、活性が低く効率が悪い脱水素酵素ほど、過去100世代で日本列島人集団内に広まってきたことを示しています。乱暴に表現すると、酒に弱い個体ほど、生存率や繁殖率が高いのです。さまざまなヒト集団について調べた他の研究でも、北京集団や台湾集団などの東アジア人に同じ傾向が出ています。

 アルコール依存症患者の集団を調べたところ、効率のよいADH1B遺伝子やALDH2遺伝子を持つ確率が高いという調査結果があるので、酒に強い人はアルコール依存症患者になりやすい傾向があるのではないか、と考えられています。また、飲酒傾向が食道ガンのリスクを高めるためかもしれません。

 ちなみに筆者の個人情報を暴露すると、ADH1BALDH2も、高活性型をホモで持っています。さらに、麦芽の香り(イソブチルアルデヒド)の受容体遺伝子NDUFA10の高感度型をホモで持っているので、生まれつきのビール好きといってもいいでしょう。(アルコール依存の危険性には気をつけないといけません。)

新常識その3:化石人骨のゲノム配列が読み取られている

 また、有意な新発見は今回ありませんでしたが、この日本列島人集団のゲノム配列はネアンデルタール人のゲノム配列と比較されました。

 ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)は、私たちと同じヒト属(ホモ)の生物種です。ヒト属の生物種は、現在では私たちヒト属ヒト(ホモ・サピエンス)しか存在しませんが、過去にはホモ・ネアンデルターレンシス、ホモ・エレクトスなど、複数いたのです。

 ネアンデルタール人のゲノム配列などというものがどこから来たかというと、化石からです。驚いたことに、現在では、条件がよければ化石からもゲノム配列が読み取れるのです。