「ビジョン2030」を自ら台無しにするサウジ皇太子

強権的な汚職摘発が内戦勃発の予兆か

2017.11.10(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51564
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 だが、ついにムトイブ氏は解任され、後任に傍系王族が任命された。「ムトイブ氏を解任すると王族内の軍事的対立を招く恐れがある」と指摘されてきたが、サルマン国王は愛する息子(ムハンマド皇太子)に王位を譲るためにあえて「火中の栗を拾う」冒険に出たのだろうか。

 また、筆者には解せないのが、世界的投資家のアルワリード王子の拘束である。

 アルワリード王子はツイッターやシティグループなど世界に名だたる企業の大株主であり、ムハンマド皇太子が進める改革に賛同していたと言われている。王族内の地位も高くなく、ムハンマド皇太子にとって王位継承を巡るライバルでもない。

 日本訪問中のトランプ大統領は11月6日、「サウジアラビア政府の大規模な汚職取り締まりを支持する」とのメッセージをツイートした(11月6日付ロイター)。アルワリード王子はかつてトランプ大統領の「イスラム教徒の米国入国を禁止する」との発言に反発したことがある。トランプ大統領からの支持を絶対視するサルマン親子にとってこれが気に入らなかったのだろうか。

 拘束された40人近くのサウジアラビアの大富豪の銀行口座は現在凍結されているが、その額は800億ドルにも上る(11月8日付ZeroHedge)。内訳は、アルワリード王子が190億ドル、アムディ氏(世界的投資家)が101ドル、カメル氏(国内で不動産開発や病院経営を手がける)が37億ドルである。

 この巨額の個人資産がサウジアラビア政府に接収されるリスクが高まっている。2014年後半からの原油価格急落で約2500億ドルの外貨準備が減少し、「カネ不足」に悩むサウジアラビア政府にとって、凍結した大富豪の資産は「喉から手が出る」ほど確保したい「現金」である。しかし、これに手を付ければサウジアラビアへの投資家の間で動揺が広がる可能性が高い(11月6日付ブルームバーグ)。サウジアラビア政府の汚職取り締まりの目的の1つに「大富豪の資産を接収することがあった」との噂が広がり始めている(11月8日付ZeroHedge)。これが事実だとすれば原油価格が上昇してもサウジアラムコの上場は事実上不可能になってしまうだろう。

国民への分配は続けられるのか?

 サウジアラビアを巡る海外の情勢では、11月4日夜、イエメンから首都リヤド近郊の国際空港に向けて弾道ミサイルが発射されたことも気がかりである。イエメンの反政府組織フーシは昨年メッカや西部ジッダに向けてミサイル攻撃を実施しているが、今回ほど人口が密集した場所に向けて発射された例はないという。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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