肥満防止のために夜食より気にすべきことがある

夜食は本当に太りやすいのか?(後編)

2017.09.22(Fri) 大平 万里
筆者プロフィール&コラム概要

24時間周期のマスター時計、視交叉上核

 ところで、そもそも私たちの身体は時計も見てないのに、どうやって24時間周期の生体リズムを維持できるのだろうか。

 24時間周期の睡眠や代謝のリズムは、生理的には脳の「視交叉上核」(しこうさじょうかく)という中枢が中心的な役割を果たしている。視交叉上核はいわば、生体リズムの「標準時」を決定するマスター時計といってもよく、この中枢を破壊すると24時間周期のリズムが失われてしまう。

 そして、「視」という漢字が含まれているように、その標準時計(視交叉核を構成する神経細胞)の24時間周期を同期(シンクロ)させるのには「光」が重要な役割を果たしている。生体リズムが何らかの原因で多少揺らいでも、その体内時計の中枢が光を受容することで、身体全体のリズムも同期されるのだ。つまり、目覚めて日光を浴びれば、正常な生活リズムが維持されるというわけだ。

時計遺伝子は体内のさまざまな場所でも働いている

 そして現在、遺伝子レベルでの体内時計のメカニズムも解明されつつある。基礎代謝も含めた生理的な応答は、さまざまなタンパク質が引き起こしている。そのタンパク質を新たに合成するときに必要な設計図が遺伝子だ。遺伝子の情報を元にタンパク質が合成され、体内の具体的な生理的反応が引き起こされる。

 つまり、24時間周期で合成されるタンパク質の遺伝子をつきとめれば、それが「時計遺伝子」ということになる。現在、哺乳類の時計遺伝子は十数種類知られているが、それら遺伝子は体内時計の中枢である視交叉上核だけでなく、肝臓や筋肉などの細胞でも24時間周期で働くことが分かっている。つまり、標準時を示す中枢だけでなく、体内の細胞も各々の「時計」を持っているということになる。

脂肪の蓄積を勧めてくるBMAL1

 そういった時計遺伝子から合成されるタンパク質のひとつに「BMAL1(Brain and Muscle Arnt-Like 1)」というものがある。読み方は「ビーマルワン」。BMAL1は他の時計遺伝子の働きを調節して、24時間周期の生理的変動をつかさどる主要メンバーだ。

 もちろん、BMAL1自身の遺伝子も、他の調節タンパク質によって24時間周期で増減を繰り返している。そして、BMAL1が増加すると、その働きにより、中性脂肪が脂肪細胞に蓄積されるように代謝が進む。BMAL1はいわば、不景気の時に財形貯蓄を勧めてくるファイナンシャルプランナーのような存在なのだ。

 もう見当はついたであろう。このBMAL1というタンパク質がより多く合成されているのが、まさに休息時間帯の夜間なのである(ただしマウスでの話)。逆に、活動時間帯の昼間にはBMAL1は減少してしまう。すなわち、BMAL1だけに着目すれば「夜食べると太る」というのは正しいと言える。

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1964年東京生まれ。生物・化学系ライター。熊本大学理学部生物学科卒業。北海道大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。旧工業技術院(現・産総研)、秋田県立農業短大附属属研究所などの流動研究員、高校教諭等を経て現在に至る。最近はその辺に転がる岩石の来歴が気になってしょうがない。


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