原油市場に現れた2つの地政学リスク

ベネズエラより怖いサウジの政変リスク

2017.08.04(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50699
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 ただし、噂されていたベネズエラ産原油の輸入禁止は見送られた。ベネズエラにとって最大の輸出先である米国市場(全輸出に占めるシェアは40%弱)を失うことは致命的な打撃となるが、米国もベネズエラ産原油の輸入を停止すれば、「返り血」を浴びることになるからだ。

 ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の子会社であるシトゴは、米国内に3つの製油所と約6000軒のガソリンスタンドを有している。つまり、ベネズエラ産原油がガソリン供給に与える影響はきわめて大きく、米国のガソリン価格が急騰するリスクがある。米国政府としては、ベネズエラが原油を輸出する際に品質を向上させるために充当している米国産原油の輸出(日量2万バレル弱)を停止するのが関の山ではないだろうか。

PDVSAがデフォルトしたら何が起きるか?

 ベネズエラの原油生産に関して米国の制裁よりも心配なのは、PDVSAが自滅することである。

 ベネズエラ全体の外貨準備が100億ドルを割り込んでしまったことから、PDVSAが外貨不足により今後の資金返済に窮し、デフォルトを起こしかねない状況である。PDVSAは多額の融資の見返りに原油を無償で供給する契約(Loan for Oil)をロシアと中国との間で結んでいる。PDVSAがデフォルトを起こせば両国に大きな損失が生じてしまうことは必至である。

 さらに、ここに来て大きな懸念要因として浮上しているのが、マドゥロ政権が進めようとしている憲法改正の中味である。

 ベネズエラの原油生産の約4割は外資との合弁企業(ベネズエラ政府の持ち分は51%)が担っている。しかし、ベネズエラ政府は憲法改正によって、この合弁企業を国有化しようとしているのだ(7月18日付OILPRICE)。もし国有化が行われれば、ベネズエラの原油生産は減少する可能性が大きい。また、債務返済にこれまで大きな役割を果たしてきた外資企業が撤退すれば、PDVSAのデフォルトは一瀉千里(いっしゃせんり)である。今年前半、PDVSAは約60億ドルの債務返済を滞りなく行ったが、10~11月に予定されている債務返済(約40億ドル)に赤信号が点滅し始めている。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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