二律両立をやり抜くことで、他社の追随を防ぐ

 丸亀製麺の店舗が増え始めた頃、繁盛する様子を見て、いくつものコピー店が出てきました。しかし、店名を「○○製麺」にしようと、セルフうどんの方式だけを取り入れようと、丸亀製麺で提供している体験価値がなければ、お客様はリピートしてくれません。そうして、コピー店はいつのまにか消えていきました。

 同業態への他社の参入が難しいのは、丸亀製麺が「二律両立」をやり抜いているからです。二律両立とは、「うどんを手間暇かけて粉から手づくりする」と「全国各地に店舗を増やし同じクオリティで提供する」というように、一見すると相反する事柄を両立することです。

 通常、全国に店舗を増やそうとすると、セントラルキッチン化を進めるものです。そのほうがどう考えても早い上に、クオリティも一定に保てるからです。しかし、丸亀製麺はそうしない。創意工夫と信念で、2つを同時に成り立たせるのです。

「スピード感を持って出店する」と「すべて直営店にする」も相反する考え方でしょう。1年に100店というペースで出店するならば、フランチャイズ方式のほうが早いし出店コストも抑えられる。でも、丸亀製麺はそうしません。

「体験価値」こそが丸亀製麺の強みであり、マニュアルにしばられず臨機応変にお客様を感動させられる人に運営してほしいからです。それはやはり、丸亀製麺の社員や丸亀製麺のパートナーさん(丸亀製麺のアルバイト・パート従業員の名称)にしかできないことなのです。

 だからどれだけコストがかかっても、丸亀製麺の理念に共感してくれる人を採用し、トレーニングを受けてもらい、店舗に立ってもらう。そうすれば、お客様の体験価値が損なわれることはないと考えています。

 結局、コストカットや効率化によるスピードアップよりも大切なのは、繁盛店をつくることです。それが優先順位の最上位となる。繁盛店をつくると売上収益が立つ。投資したコストを上回る利益を出すくらい、一つひとつの店が繁盛すればいいのです。

 そうすれば固定費の比率が低くなり、収益が上がり、出店資金ができる。そして、結果的に早い出店につながっていく。遠回りしているようで、長い目でみれば持続的に多くの店を出す早道になっているのです。

 手間暇をかけ、非合理を貫く。これは一朝一夕で真似できることではなく、参入障壁は高くなる。飲食店経営をわかっている人であればあるほど、丸亀製麺のやり方は非合理すぎて真似できないでしょう。それゆえに他社との売上競争に巻き込まれることなく、お客様の求めることだけを追求することができます。

 価格帯やファストフードというくくりであれば競争相手がいるのかもしれませんが、体験価値という点では競争相手がいないブルーオーシャンが広がっています。だからこそ、このやり方が我々独自の勝ち筋となったのです。

<連載ラインアップ>
第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?(本稿)
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」(11月26日公開)
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム(12月3日公開)
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3項」とは?(12月10日公開)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?(12月17日公開)

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