村田 具体的には、全社的なデジタル基盤を導入し、ホワイトカラーが行う定型業務を可能な限りソフトウエアに置き換えます。これにより、業務効率が向上し、ホワイトカラーの余力を生産性の高い非定型業務に振り向けることが可能になります。つまり、少人化と多能工化が進みます。

 とはいえ、定型業務を剥がすことは、現場から必ずしも歓迎されない場合があります。ブルーカラーの世界でも、職人が担っていた業務を機械に置き換えようとした際に大きな抵抗がありました。定型業務の方が非定型業務に比べて負荷が軽いことから、抵抗があるのは当然と言えます。

 しかし、現在深刻化している人手不足に対しては、社員が担う定型業務を削減することが解決策となります。そしてそれを進めることができるのは経営者です。現場は仕事を増やすことはできますが、自発的に業務を減らすことは難しいでしょう。経営陣によるトップダウンの指示が不可欠です。

 21世紀の企業は「いかに定型業務を社員に担わせないか」という競争の時代に突入しています。今後、AI技術の進展により、その競争はさらに激化することが予想されます。経営者はこれを先取りし、迅速に取り組むことが企業の競争力強化につながるでしょう。

変革の仕組み化を実現させる「日本型BPR2.0」とは

──著書では、ホワイトカラーの生産性革命には「日本型BPR2.0」の推進が重要としています。これはどのようなものであり、従来のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)とはどう違うのでしょうか。

村田 BPRは2000年前後に世界中で注目され、ホワイトカラーの生産性革命の教科書となったものです。BPRは「何をすべきか」は明示されていたものの、その実践方法、つまり「どのように適用していくか」という部分が十分に理解されておらず、日本では広く浸透していませんでした。

※業務改革の代表的なフレームワークの一つ。従来の業務プロセスを抜本的に見直し、再構築することで生産性向上などを狙う。

「日本型BPR2.0」は、BPRと基本コンセプトは同じで、そこに方法論を加えたものであり、従来のカイゼンとは違う変革を「仕組み」として推進していくためのものです。変革の仕組み化を行うことで、特別に有能なリーダーがいなくても、組織として継続的に変革を行えるようにするのが特徴です。

 BPR2.0を定着させるには、多大な努力と経営者が本気で取り組む覚悟が求められます。しかし、欧米企業では行えていることなので、日本企業でも決して不可能なことではありません。最終的には、経営陣が不退転の決意で始められるかが重要ではないでしょうか。

──著書では「日本型BPR2.0」によって組織変革を進めるポイントとして、こうした組織能力向上を担う責任者と、会社の事業を担う責任者を分けるべきだと指摘しています。その意味は何でしょうか。

村田 通常、事業部門のトップである事業部長は日々の事業運営や売上拡大に集中せざるを得ず、事業を支える業務プロセスやシステムの大幅な見直し、業務効率化といった組織能力向上の変革は後回しになる傾向があります。

 このため、事業部長とは別に、組織能力の向上や変革を担当する専任のCOO(Chief Operating Officer)といった責任者を配置することが重要です。こうすることで、事業部長は事業そのものに専念でき、組織変革の責任者は効率化やプロセスの見直しに徹することが可能となります。組織全体の生産性向上が図られ、日常業務の改善にとどまらない大規模な改革が実現できるのです。

 日本企業が全体最適を目指すには、このような二人体制が重要であり、経営者はこの体制の重要性を十分に理解し、実践することが求められます。

──さらに、組織能力の向上は「五位一体」で変革を進めることが重要としていますが、どのようなものでしょうか。

村田 「五位一体」の変革とは、企業の組織能力を5つの要素に分けて、これらを一体的に変革していくアプローチです。5つの要素とは「組織構造」「プロセス/ルール」「人」「データ」「システム」であり、各要素は互いに密接に関連しているため、一つの要素だけを単体で変革しようとしてもうまくいきません。

 例えばシステムだけを新しくしても、組織構造が縦割りのままではシステム導入における部署間の利害が対立しやすく、また業務プロセスも現状のものへのこだわりが強いために、現場で改善が進まないということがあります。こうした課題を解消するためには、COOなどの組織能力向上を担う責任者の下に、5つの要素をすべて集約させて、一体的に変革していくことが必要です。

 ただし、すべての要素を一度に変革しようとすると、社内からの反発が起こりやすくなるのも事実です。「総論賛成、各論反対」という状況が生まれることもあるでしょう。これを乗り越えるためには、「北極星」となる不動の目標が必要です。北極星とは、自社が目指すべき方向性を明確に示すもので、社員が変革の意義を共有して組織を一つの方向に導くための指針となります。

 北極星は単なる理念ではなく、具体的な目標と数字に裏付けられたものでなければなりません。経営者は、変革がベストエフォートではなく、必達事項であることを明確にし、その進捗を定期的に管理、評価することが求められます。このようなアプローチによって、組織全体が一体となって変革を進めることができるのです。