ポジティブ・フィードバックの効果
ポジティブ・フィードバックとは何か。簡単にいえば、相手のよいと思われる行動を指して、何がよいかを口に出して伝えること、相手の望ましい行動を認めて、感謝の気持ちを伝えることです。「ほめる」ことと同義ですが、ほめるという行為に抵抗を感じるようでしたら、「とてもよかった」「あれは大丈夫だった」「あの件に対して満足している」などと評価を伝える手段として、ポジティブ・フィードバックをとらえましょう。
ポジティブ・フィードバックはできるだけ頻繁に行う方が望ましいといえます。部下の仕事に満足したとき、うれしかったときに、口に出すようにします。第4で紹介したネガティブ・フィードバックは部下ひとりに対するものですが、ポジティブ・フィードバックは個人にもグループにも行うことができます。
たとえば、個人がよい仕事をしたときはその個人に、チームがよい成果を出したときはチームに、それを伝えることができます。いずれも、明確な言葉で伝えることが大切です。笑顔やしぐさなど言葉以外の方法に依存すると、自分の気持ちが明確に伝わらないおそれがあるからです。
ポジティブ・フィードバックの効果は、心理学ではpositive reinforcementと呼ばれ、日本語では「正の強化」と訳されています。アメリカの社会では、広く心理学のコンセプトが浸透しています。心理学の本がベストセラーになり、心理学者にはテレビ出演の機会が多く、企業でも心理学的なアプローチから様々なマネジメント手法が取り入れられています。
「正の強化」は日本人ビジネスパーソンにとってなじみのない言葉ですが、アメリカ人ビジネスパーソンならおそらく90パーセント以上はpositive reinforcementのコンセプトを知っています。
「正の強化」の定義は、相手が望ましい行動をするとき、それに対して何かよいもの(褒美)を与えることです。相手はその褒美をまたもらいたいと思い、同じ行動をすることで、その行動が強化されます。
わかりやすい例に犬のトレーニングがあります。犬に「お座り」と言って、犬が座れば「よし」と言ったり、褒美をあげたりします。そうすると、次に「お座り」と言われたとき、犬は座るようになります。褒美をもらいたいからです。それが「正の強化」で、犬の望ましい行動を強化する効果を持っています。
この原理で動くのは人間も同じです。そのため、部下を動かしたり部下のよい行動を奨励したい上司にとって、有力な道具になるのは間違いありません。
もちろん人間の場合は誠実さが伝わる時だけ効果があります。ほめなくては、感謝しなければ、認めなくてはと思って、無理やり、機械的に言及するのでは逆効果です。