発電プラントや廃棄物処理プラントなどを建設するJFEエンジニアリングが、プラントの設計や操業にAI・ビッグデータを活用するDXを進めている。その中核ツールとなるのが、データ解析プラットフォーム「Pla'cello(プラッチェロ)」だ。ITの専門知識を持たないプラント技術者でも直感的な操作でAI・ビッグデータを活用できるツールとして独自に開発、2018年より運用を開始した。なぜプラッチェロを自社で開発したのか。プラッチェロを活用する人材をどのように育てているのか。JFEエンジニアリングDX本部長の小山建樹氏に話を聞いた。
既存のデータ解析ツールに不足している機能とは
──「プラッチェロ」の開発を含め、JFEエンジニアリングは自前でのDXにこだわっています。なぜでしょうか。
小山建樹氏(以下敬称略)当社が運用する発電プラントや廃棄物処理プラントの実態に即した分析ができるプラットフォームが必要だと判断したからです。
2010年代からクラウドの使用が一般的になり、IT企業が作った「データ解析ツール」をプラントエンジニアリング企業も活用するようになりました。
ただ、われわれが運用する発電プラントや廃棄物処理プラントなどを効率的に操業するためには、これらのツールでは不十分で、電気や温度圧力によって変化する時間軸のデータが追加で必要になってきます。
データ解析ツールの開発者はソフトウエアエンジニアですが、プラントの専門知識を有するエンジニアしかプラント操業にどのようなデータが必要か判断できません。また追加でどのような機能が必要になるか、現場の事情に精通した人間でないと分からないところがあります。
一方で、当社が抱える電気制御などを専門とするハードウエアエンジニアは、情報学や統計学などデータサイエンスに関する専門性はないことが多い。
そこで、AI・ビッグデータの知識に乏しいエンジニアでも直感的に使える、実際のプラント運用に即したデータ解析ツールを自前で開発し、生産性向上につなげようとしたのです。
プラッチェロは2018年11月から本格的に運用を始め、現在2000人を超えるエンジニアが利用しています。業務の生産性向上にも役立っていて、データ解析関連の業務時間を最大90%削減できた、というケースもあります。
──プラッチェロの活用事例には、どのようなものがありますか。
小山 例えば、ごみ焼却炉の操業の92日間の完全自動運転を実現しました。ごみ焼却炉の運転には異常検知を行うオペレーターの存在が不可欠です。ただ、近年は慢性的な人手不足の状態にあり、省人化が期待されていました。
自動燃焼制御装置を高度化させた「BRA-ING(ブレイング)」というシステムを導入したことで完全自動運転を実現したのですが、ブレイングの機能の一部にはプラッチェロで解析したデータが組み込まれています。
プラッチェロが可能にしたのは「燃焼状態の自動検知」です。地域や季節による温度差によって、往々にして燃焼状態には異常が出てしまいます。従来は燃焼状態を手動でチェックしていたのですが、プラッチェロに過去の手動介入時データを解析させ、“燃焼が強すぎるのか、弱すぎるのか”を自動で判定できるようにしたのです。
このように、プラントの現場でしか分からないデータを独自のプラットフォーム上で解析し、課題を解決しているのがわれわれのDXの特徴です。
──実際に、プラッチェロを活用し始めたことで、社員のDXに対する意識も向上しているのでしょうか。