カクシン 代表取締役社長 CEO田尻望氏(撮影:内藤洋司)カクシン 代表取締役社長 CEO田尻望氏(撮影:内藤洋司)

 高収益と高賃金という一見相反するものを両立させるには、より多くの付加価値を生み出せる仕組みが欠かせない――。そう語るのは、キーエンス出身で、現在はカクシン代表取締役社長CEOを務める田尻望氏だ。前編に続き、書籍『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』(クロスメディア・パブリッシング)を出版した同氏に、社員がより多くの価値を生むための報酬戦略や、業績改善を行う上での評価制度の活用法について、話を聞いた。(後編/全2回)

【前編】高賃金企業はここが違う 「人手が足りない」と嘆く経営者に必要な発想の転換
■【後編】平均年収400万円ダウンから奮起したキーエンス社員、3年でV字回復できた勝因(今回)

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「時間チャージ」の概念が組織の生産性を高める

――前編では、著書『高賃金化』で解説している「全社業績連動型報酬」について聞きました。キーエンスでは、役職に応じて報酬が決まる制度は設けているのでしょうか。

田尻 望/カクシン 代表取締役社長 CEO

京都府京都市生まれ。2008年に大阪大学基礎工学部情報科学科卒業後、株式会社キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして、技術支援、重要顧客を担当。大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛けた。その後、企業向け研修会社の立ち上げに参画し、独立。年商10億円~4000億円規模の経営戦略コンサルティングなどを行い、月1億円、年10億円超の利益改善企業を次々と輩出。企業が社会変化に適応し、中長期発展するための仕組みを提供している。

田尻望氏(以下敬称略) 役職に近い概念として「クラス」と呼ばれる責任の区分けがあり、基本的な給与額はクラスごとに決められています。これは「クラス別評価制度」と呼ばれています。

 実績によってクラスが上がる仕組みになっており、クラスごとに「求められている責任と役割」が明確化されている点が特徴です。

 さらなるポイントは、ここに「時間チャージ」の概念が含まれており、クラス別に「1時間で生み出す付加価値の額(成果、付加価値)」が定められていることです。

 時間チャージの考え方を取り入れると、一人一人の行動や意思決定に変化が起こります。例えば、部長クラスの人が安易に若手の営業に同行することがなくなります。単に同行するだけでは、部長クラスの時間チャージを満たすような価値を生めないからです。

――クラスが高くなるほど、1時間でより大きな付加価値を生むことが求められるわけですね。

田尻 そうです。これは某飲食チェーンの店舗で目にした光景ですが、取締役がレジでの会計業務など、店舗のオペレーションを手伝っていました。新店舗の立ち上げや店舗立て直しを目的とした短期限定の取り組みであれば仕方ないかもしれません。

 しかし、人手不足を理由にアルバイトと同じ業務をしているのだとすれば、取締役の時間チャージを満たすことはできません。取締役クラスなのであれば、重要な意思決定のための時間を持つべきで、その時間が取れない状況が続けば、経営に対するネガティブな影響が生じます。

 クラス別評価制度に時間チャージの概念を加えることで、組織全体の付加価値生産性を高めることができます。そして、「全社業績連動型報酬」「クラス別評価」に続く3つ目の報酬制度が、健全な競争意識を生むために欠かせない「相対評価」です。